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第十四話 不死の救世主

「あの……アリエス様、あの本当にデス様の言う通りに、この広場で待機するのでしょうか?」


 全身を黒いローブで隠したアクエリアスは、隣で同じような姿をしているアリエスに対して不安そうに言った。


「はい。当然です。デス様がそのようにおっしゃったのですから。私たちはデス様の意思に従うのみです」


 アリエスは淡々と答える。

 その顔に不安は伺えない。


「でもですね、私たちは少人数です。それに少数精鋭というわけでもありません。やはり彼女を助け出すと言うのは無謀では?」


 アクエリアスの言う事も尤もだった。

 不死の騎士団は結成してまだ数か月しか経っておらず、デス含めての合計で五人しかいない。全員が不死者であるが戦闘経験のある者は少なく、アクエリアスもアリエスと同じく殆ど戦えない。また二人とも武器すら持っていなかった。


 それに対して敵対する教会の者達は数多く、その中には騎士もいる。

 彼らと戦うのは多勢に無勢、例え死なずの体であっても勝てる道理はない。きっと彼らに取り囲まれて一人ずつ確保されるだろう。もしくは不死殺しによって断罪されるか。


 少なくともアクエリアスはそんな不安が頭をよぎっていた。


「いいえ。無謀などではありません。デス様は例えその道が困難であっても、必ずやあの少女を救うはずです。そのように仰ったのでしょう?」


「はい。ですが、静観するにしても、と付け加えておられました。だからこの場は見ているだけなのでは?」


 デスは不死殺しの秘密を知りたがっている。

 今回はそのための行動ではないのだろうか、とアクエリアスは思っていた。


「いいえ。そんな事はあり得ません。例え口ではそうおっしゃったとしても、デス様は大空のように雄大で優しいお方です。その真意が私たちに掴めないとしても、彼が“私たち”を救わないなんて考えられません」


 アリエスは周りに響かない小さな声だが、強く言った。


「本当にそうなのでしょうか?」


「ええ、そうです。アクエリアス、今にもあなたに分かる時が来ます。デス様のようなお方がいてよかったと。彼こそが私たちを救うのだと」


 そんな会話をしている間に教団は馬車でこの広場にやって来て、鎖につながれた少女をまるでペットのように歩かせる。


「あれがっ……人のすることなのですか?」


 不死人である少女の痛々しい姿には、アクエリアスは歯を強く食い占めた。


「アクエリアス、私たちとは違い、あなたは彼らに自分の正体を隠せたまま私に出会う事ができた。そして身を隠せる場所に所属することができた。あなたは運がよかったのです」


「それは分かっています」


「私たちは、通常、あのような扱いを受けます。それは親兄弟であっても変わりません。私たちは人でなくなった時から、人としての扱いを受けなくなる。例え貴族であっても、扱いは奴隷以下となります」


「ですがっ――」


「あなたがあの光景を見て怒るのは当然の事です。だからデス様が立ち上がられたのです」


 アリエスは恍惚した顔で言った。


「分かりました。私は、私を救ってくれたアリエス様を信じます」


「ありがとうございます」


 それから民衆に紛れてアリエスとアクエリアスが見守る中、パンの演説が始まった。彼の言葉に民衆は感銘を受けているが、二人にとっては忌々しい言葉そのものだった。


 二人とも知らず知らずの内にパンを睨みつけていた。

 そしてパンの話の論点は変わる。

 処刑から追及へと。


「だが! この町に不死がいるという情報が私の元に入った。それも彼らは自身たちの仲間である不死を救うという! 

 なんと嘆かわしい事か。なんという大罪か! 

 だから君たちにお願いがある! 私に君たちが不死でないと証明してくれ! なに、簡単な事だ。君たちはこれから私の騎士によって、指を少しだけ斬られる! 不死ならすぐに治るが、生者なら治らない! 簡単な証明だ。それによって君たちが不死と言う悪ではなく、心に正義ある生者だと証明してほしい!


 その言葉を聞いた時、アリエスとアクエリアスは思わず顔を見合わせてしまった。

 デスの命令によって広場に待機していた二人は、民衆の中にまぎれている。そして騎士によって囲まれていた。


 逃げ場などどこにも見当たらない。

 あれほどの人数の騎士を相手に、二人は勝てるとも思わなかった。そもそも二人は素手で、か弱い女性だ。死なないとしても屈強な男相手に勝てる筈がない。


「ど、ど、ど、ど、どうしますか、アリエス様?」


 あわわわ、と言いながらアクエリアスは焦っていた。

 例え不死となり、不死の騎士団に所属しているとしても、彼女は数か月前まで市井の少女だったのだ。

 このような状況に慣れているわけでもない。


「――待機です。私たちはデス様に待機するように言われていますから」


 自信満々にアリエスは言った。


「ほ、本気ですか?」


「ええ。そもそも不死の処刑と言うのが引っかかっておりました。私のいたみやこでもそんな事はございませんでした。だからきっと何か裏があるのだと思っていましたが、こういう事だとは……」


 どうやらアリエスは協会が何か企んでいたことに気付いたようだった。


「流石はアリエス様です」


「デス様は頭脳明晰なお方です。私が考えるこの程度の罠は当の昔に見破っておられるでしょう。だからこそデス様は私たちに待機を命じたのです」


「な、なるほど……」


 だが、アリエスは納得しないように顎を摩る。

 不死者がこの町にいるとどの線からばれたのだろうか、と。不死の騎士団は仲間にしか伝えておらず、結成してから三か月不死として活動したこともない。


 だが、彼らは確かに言ったのだ。


 ――近頃この国では、卑しくも不死共の活動が目立ってきている、と。


 アリエスは不死が集まって活動しているなど聞いたことがなかった。彼らの殆どが他者を信用せずに個人で活動していると聞いているのだ。

 だからこそ、少人数ではあるが、不死を纏め上げるデスの事を尊敬しているのだ。


 もしかして不死の騎士団以外にも、不死の団体があるのだろうか、とアリエスは思った。


「き、来ます。アリエス様、私たちの番が……!」


 アリエスがそんな事を考えている間に、騎士たちは二人に近づいていた。

 アクエリアスは怯えたようにアリエスの腕に抱き着く。

 騎士たちは民衆の端にいる者達から順番にナイフで手の平を浅く切り、不死かどうかを調べている。もちろんその行為には多数の神官もついており、生者と認定された者には手当として消毒液とガーゼといった高価なものをふんだんに使っている。


 不死の検査のせめてもの報いだろうか。


 アリエスは例え騎士たちが目の前にやって来たとしても、気丈な態度で対応していた。

 デスの事を心から信じているが、目の前の騎士が恐ろしいのも確かだった。

 アリエスは無意識のうちに両手を握りしめて、強く祈った。


 ――デス様、私たちをお助け下さい、と。


「あれはっ!」


 ――そんな時だった。

 民衆の中で“黒”が高速に駆け回り、一瞬のうちに飛び上がって処刑台に乗ったかと思うと、人々にその姿をあらわにしないままマンションの屋上まで高く跳躍した。


「あれはっ――!!」


 アクエリアスは見慣れた服装をしている人物が誰か分かった。


「ああ、やはり、あなた様は……!!」


 恐怖に包まれていたアリエスも、ほっと安堵したかのように胸を撫で下ろした。

 マンションの屋上にいる者は全身を黒いコートで身を包み、アリエスお手製の黒い仮面をつけていた。


「待て! あいつ、不死者がいないぞ!」


 民衆の一人が叫ぶ。

 確かに処刑台の上に枷のついた少女は既に存在しなかった。


「あ、あそこに不死者がっ!!」


 枷のついた少女は、先ほど広場を駆け巡った黒い者の手に中にあった。


「我が名はデス。不死を救う者だ――」


 仮面の男は、声高らかに言った。

 その姿を見たアリエスはデスの姿があまりにも神々しくて、自然と瞳から涙が溢れていた。

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