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第十三話 これはきっと高度な罠に違いない

 俺が処刑場に着くと、人々のテンションはピークに達しようとしていた。誰もが騒ぎ出し、死刑が執行される不死人を今か今かと待ち望んでいる。彼らに処刑を忌避する様子はなく、むしろ処刑を見たがっているようにも見えた。


 もしかしたら彼らにとって不死人の処刑は、娯楽の一つなのかもしれない。


「さっさと不死者を出せーー!」


 叫んでいるのは野太い声が多いが、老若男女に関係がなく様々な人が集まっている。誰も不死者を見たい者が多いのだろう。


 だが、広場に集まっている者達の中に貴族は殆どいなかった。殆どが平民だ。

 ふと俺は上を見てみると、レンガ造りのマンションから広場を除いている影が幾つも見えた。貴族たちは上から見ているのだろうか。


「そうだ! そうだ!」


 俺も平民らしく、彼らの中に混ざる。

 当然、彼らと同じようにやじを飛ばしている。

 もちろんこれは本心ではなく、他の聴衆に違和感なく混ざるためだ。


 そして人波に流されて、前へと人を縫うように通って行き、ロープで区切られた一番前に躍り出る事ができた。

 俺は出来ればもっと処刑台に近い位置で見たかったが、これ以上に前には行けない。剣を持った騎士たちによってこれ以上前には進めないようになっているからだ。

 だけど、庶民の中では不死の処刑を見るのにこれ以上ない絶好な位置だ。


 処刑台は簡素なものだった。

 広場の中央にあったのは木で作られた大きな台だ。

 そこには枷なども用意されておらず、ハルバードを持った全身鎧の戦士が二人ほどいるだけだった。

 どうやら不死を殺すのに大掛かりな仕掛けはいらないようだ。


 それから観客のボルテージはどんどん集まっていく。

 彼らの興奮が治まったのは、馬車が広場にやって来た時だった。


 通る隙間もないほどに密集した広場に辿り着いた馬車は二つだった

 一つは屋根があって正十二望星が描かれた馬車であり、もう一つは屋根すらなくところどころが腐食し穴が開いている馬車だった。


 二つの馬車は先頭を騎士に守られたままゆっくりとしたスピードで近づいてきた。

 それに合わせて民衆は道を開ける。

 誰もハルバードを持った騎士たちには逆らわない。

 彼らに逆らうと問答無用で切り捨てられる事を知っているからだ。


 二つの馬車が俺の前に止まった。

 最初の馬車からは正十二角形が刻まれたローブを着たかっぷくのいい男が二人出てきて、そのうちの一人がぼろい馬車の中へと入って行った。


 誰もが固唾を飲んでその光景を見守っていた。

 ぼろい馬車の中から出てきた男が出てきてから、不死者として最初に見えたのは“鎖”だった。

 それから醜悪であるが傷一つない体が見えた。

 どうやら、不死人は少女のようだ。


 そして少女は男に鎖を引っ張られるがまま進んだ。

 足取りは遅い。

 足枷によって満足に歩けないのだ。

 その度に躓き、男が不死人を強く蹴って立たせてまた進ませる。

 それが処刑台に着くまで続いた。


 最初に降りた男は既に処刑台に乗っており、不死人の到着を今か今かと待ち受けていた。

 不死人を処刑台に跪かせた後に、ローブを着た偉そうな男は口を開けた。


「諸君! 今日はこの忌々しい不死の処刑を見物しに来てくれて感謝する。私の名前はパンだ。『聖音教』に属する者であり、この度は偉大なる教皇より不死の処刑という極めて重要な役目を任された者だ。

 さて、私の事など君たちにとってはどうでもいいかも知れない。見たいのはこの忌々しい不死の処刑だと思う!!」


「その通りだ!」


 観衆の一人がパンの言葉に同意したのに合わせて、多くの人たちが賛同する声を出した。


「そうだ、そうだ!」


 だから俺も同じように同意することにした。

 それから広場は一旦叫声に包まれた。

 だけどパンはそんな怒号を手を大きく広げた同時に騎士がハルバードの石付きを強く地面へと叩いたことによって止める。


「だが、ここで――君たちに確認したいことがある」


 パンと名乗った男は俺達聴衆を見下すような目で眺めるように言葉を止めた。


「近頃この国では、卑しくも不死共の活動が目立ってきている。彼らはこの国に蔓延る悪であり、我々にとっても君たちにとっても排除しなくてはならない存在だ」


 誰もがパンの声に頷いている。

 あれ、おかしな空気になってきたぞ、と俺は思った。


「私たちは不死を断罪することを大義としている! もちろん私自身も不死狩りという大きな使命を遵守するつもりだ!」


 うん。

 だから早くその不死の少女を殺すところを見せて。

 だけど、パンと言う男の演説は続いた。


「だが! この町に不死がいるという情報が私の元に入った。それも彼らは自身たちの仲間である不死を救うという! 

 なんと嘆かわしい事か。なんという大罪か! 

 だから君たちにお願いがある! 私に君たちが不死でないと証明してくれ! なに、簡単な事だ。君たちはこれから私の騎士によって、指を少しだけ斬られる! 不死ならすぐに治るが、生者なら治らない! 簡単な証明だ。それによって君たちが不死と言う悪ではなく、心に正義ある生者だと証明してほしい!」


 パンはとても大きな声で言った。

 それと共に広場には多くの騎士たちが近づいてくる。

 彼らは剣ではなく小さなナイフを持っており、本当に不死を炙り出すために一人ずつ斬っていくのだろう。


 まさか不死の処刑とはこれが目的だったのか。

 パンはなんという卑劣な行為を行うんだ!

 不死殺しが知りたい不死をこのように誘き出して、あわよくば新たな不死を見つけて殺すなんて。


 まさかこれも俺を誘き出すためだったのか。

 確かに俺は不死だが、この町にいる。そんな俺がいる情報を見つけて、殺そうとしている。彼らの情報網はなんて恐ろしいんだ。

 個人の特定はまだかも知れないが、確実に俺を狙っている。


 いや、だけどやっぱりそれはないな。

 俺は少しだけ考えて、そう結論を出した。

 俺はばれるような行動をしていないし、不死としてこの町で活動したこともない。俺の行動で、この町に不死がいるなんて思われる事は絶対にないはずだ。


 これは俺の予想だけど、きっと不死の騎士団の誰かの行為のせいで不死者の存在がばれたのだろう。

 騎士団のメンバーにはもっと慎重に行動するように言わないといけないな。


 でも、今はそんな事はどうでもいい。

 この状況を何とかしないと。

 不死者だとばれると、もう二度と日の目を浴びた生活ができなくなる。きっとどこに行っても不死者として張り紙が出されるだろう。


 それは困る。

 せっかく冒険者になったんだ!

 これから生者に戻る方法を探すと言うのに……。


 さあ、どうしよう。


 俺は心臓の鼓動が熱く波打つのを感じた。

 これ以上ないピンチだった。

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