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第十一話 不死殺し

 冒険者見習いになってから三か月が経った。

 これで俺も見習いを卒業してやっと冒険者になれるという。

 ここ三か月大した事はしていない。これまでと同じようにフォルミの元で冒険者としての基礎を学んだのだ。


 俺は隣にいるオリヴィエのように脳筋になりたくなかったので、戦闘以外の事を重点的に磨いた。例えば薬草の種類や売れる鉱石などを必死に覚えたのだ。オリヴィエはそんな事に興味がなかったのか、大抵はやり過ごしてきた。

 と言うよりも薬草集めの依頼を受けた場合、必死になって薬草を集めるのは俺なのだ。

 おかげで薬草を集めるスキルが上がった。

 これで冒険者として生活に困窮することはないだろう。


「お前たちに渡すものがある。これが冒険者の証だ。しっかりと持ってくれよ」


 そうフォルミから渡されたのは、冒険者の証である長円形の金属板のネックレスだ。俗に冒険者タグとも呼ばれており、所属しているギルドの名前と自分の名前が刻まれている。


 もちろんランクによって金属が変わっていくが、最下級の冒険者である俺たちの冒険者タグはアイロンで作られている。


 冒険者タグの主な役割は身元確認であり、顔などで判別ができなくなっても個人の死体だと分かるように持たされるのだ。

 またこの冒険者タグを使う事によって、ギルドの施設も多数使用できるようになる。


 フォルミはこれを渡す時に再発行には手数料が必要だと言っていた。

 どうやらただで何度も発行してくれるようなものでもないらしい。


 俺とオリヴィエはそれを受け取ると、すぐに自分の首にかけた。それから服の中へ冒険者タグをしまうが、これをつけてやっと一人前の冒険者だと自覚させられる。

 そう言えば、と思ったのだが前に付けていた冒険者タグはどこにいったのだろうか。

 不死者として目覚めた時には既になかった。


「さて、お前たちはこれでようやく冒険者見習いを卒業だ。この三か月よく頑張った。これからは冒険者として立派に働いてく……」


 ギルド内にあるテーブルでありがたい言葉をフォルミから受け取ろうとした時、ギルドの外で大きな騒ぎが起こっていた。


「不死者だ!!」


「不死者が、来たぞー!!」


「明日に不死者の処刑が行われるらしいぞー!!」


 外は明日に行われる不死者の処刑で大騒ぎだった。

 どうやら協会が不死者の処刑を行うらしく、その事を見聞して回っている神官とそれに踊らされている庶民達が騒ぎの出どころだった。


「喧しいな。ま、何はともあれ、お前たちは立派な冒険者となった。これから頑張ってくれよ!!」


 フォルミ曰く、本当ならこの後一杯一緒にどうか、と誘いたいところらしいが、どうやら彼にはこの後予定があるらしく、正規の冒険者になったお祝いはまた後日という事になったので、俺とオリヴィエがいつものようにギルド内にある椅子に腰かけている。


 俺が立って去ろうとした時に、オリヴィエから話しかけられた。


「ねえ、あの騒ぎってどう思う?」


「騒ぎって不死者の死刑の事か?」


「そうよ」


「見てていいもんじゃないよ」


 明日は我が身かと思うとぞっとする。


「私もそう思うわ。不死者だって元は人よ。それをあんな風に見世物のように扱うなんて――」


 オリヴィエは怒っているようだった。

 静かな瞳に強い意志が感じられる。


「もしもオリヴィエだったらどうするの?」


「私? 私だったら苦しませずに一太刀で殺すわ――」


 なんて怖いことをオリヴィエは言うのだろうか。


「そうなんだ。前に殺した時もそうだったもんね」


「そうよ。死を冒涜してはいけないわ」


 彼女はそれだけ言ってからギルドを出て行った。

 それから俺も取っている宿屋へと戻ろうとした時、道の端に全身を黒いローブで隠している人物を見つけた。

 見知った顔だったので、俺は彼女とは顔を合わさずに裏道へと入って後ろから話しかける。


「デスだけど、調査結果はどうだった?」


 彼女は水瓶座アクエリアスと言い、俺やアリエスと同じ不死者だ。

 勿論不死の騎士団のメンバーであり、アリエスがどこからか連れてきたのだ。


 不死の騎士団はアリエスの熱心な勧誘もあって、徐々に人数を増やして大きくなっている。

彼女がどこで不死者を見つけてくるのかは知らないが、それなりに不死の騎士団も大所帯になってきている。


「では、結果を報告します。オリヴィエ様に関しては何も分かりませんでした。出自も、経歴も、過去は勿論の事、ギルドで見習いになるまでの全ての情報が秘匿されており、わたくし共の調査では残念ながら何も……」


「そうか」


 俺が彼女たちに頼んだのは、“不死殺し”ができるオリヴィエの調査だ。

 彼女には何かある、と常々思っていたのだ。

 そもそも“不死殺し”は勇者すらできない事だ。彼女がただの市井の人間だとは思えない。


「はい、申し訳ありません」


「いや、いいよ。半ば想像していた事だから。それよりも今回捕まっている不死者は俺達の仲間?」


「違います。騎士団の同胞に捕まった者などおりません」


「じゃあ、捕まっている不死者の正体は分かっているの?」


「はい。おそらくはどこからか連れてこられた不死者だと。不死者が乗った馬車が昨日の今朝、この町に到着しました」


「なるほど。それで、アリエスは捕まっている不死者をどのようにするつもりなの?」


俺は感心するように頷いた。


「静観するにしても、助け出すにしても、デス様の思召すままに――」


 アクエリアスが膝をつきそうになるのを止めた俺は、内心どうしようかと思っていた。

 いい案は思いつかない。

 ただ一つ言える事があるとすれば、その場にはいかなくてはいけないと思った。


 俺は不死殺しの秘儀が知りたいのだ。

 もしもそれを知ることが出来たら、俺は不死人として対策を練ることが出来る。

 俺が彼女たちにオリヴィエの調査を頼んでいたのもそのためだ。


「そう。じゃあ、君たちは処刑場の周りに待機してて。もしも行動を起こすなら、その時に便乗すればいい――」


「分かりました――」


 アリエスがその場に跪いた時には、既に俺は闇に紛れて彼女の元を去っていた。

 さて、まずは状況を把握しに行こうか。

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