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第十話 天敵は意外と身近にいる

 俺はそんなフォルミの判断は妥当だと思った。

 どれだけ強い冒険者であっても不死者は勝てるような相手ではない。その事は俺がこの身で味わっている。


「ちょっとどうして逃げるのよ!?」


 だが、オリヴィエじゃいたようにフォルミへと反論した。


「どうしてって決まっているだろうが。あれは不死者だろうが」


「そんなのは見たら分かるわよ。聞いているのはどうして逃げるのかって話よ。倒せばいいじゃない」


「倒せばって、倒せないから言っているんだろうがっ!」


「じゃあ、私が倒すわ、あなたはそこで見てて――」


「ちょっと、待て、馬鹿――」


 フォルミは必死に彼女を止めようとするが、オリヴィエには近づけなかった。


「フォルミ、あなたに見せてあげる。不死殺しを――」


 先ほどと同じように剣が黄金に輝くが、先ほどとは纏う空気が変わった。

 大気が揺れる。

 先ほどよりも剣は強く輝き、オリヴィエの持つ剣に収束される。


 まるでそれは太陽の様だった。


 だが、不死者にとって太陽は弱点ではない。

 夜の眷属と言われている不死者は杭や太陽、銀などの多くが弱点として効くという迷信があるが、実際の不死者はもっと完璧なものだ。


 現に俺はそれらでは死なない。

 太陽を浴びても死ぬことはない。また肌がぴりつくこともなかった。

 杭や銀も同じように弱点ではない。そもそも不死者殺しについては俺もこの短い間に調べたが、有用な情報は一切出なかった。


 そもそも“不死狩り”と呼ばれる者達は存在するのか、そして不死を殺す事など本当にできるのか、どちらも俺は知らない。


 もしも知っていれば対策できるのに。


「なっ、何だよあれ!?」


 フォルミはこれまでよりも強いオリヴィエの魔力に驚いたように言った。

 彼女の圧力を感じているが、そもそも俺は近づくつもりもなかった。


 危うきに近寄らず。

 それほどまでに彼女の魔力は高まっていた。


 そして高まった魔力が――爆発する。


「いい? これが私の本当の力よ!!」


 オリヴィエは不死人へと黄金の剣をぶつけた。


 不死人は切り裂かれて吹き飛ばされて、そのまま地面へと転がった。斬られたのは胸だった。

 だが、その程度の傷で不死人が死ぬはずなどなく、また立ち上がった。


「あーあ。だから逃げればいいのに」


 ぼそりと呟くフォルミ。

 だが、そんな言葉もつゆ知らず、オリヴィエは一方的に不死人を切り刻んだ。

 胸を、手を、足を。

 圧倒的な速さと力を誇るオリヴィエの動きに、不死人は全くついていけなかった。事実、不死人は一方的にオリヴィエから嬲られていた。


「遅い! 弱い! 弱すぎる!! これがあの不死人なの!?」


 理性がなく体が半分腐っている不死者なら、俺だって同じことはできる。

 というか実際に同じことをして、倒せなかったから諦めて逃走したのだ。


 俺は無駄な事はしない主義である。


「ならばこのまま死になさい! あんたはこの私の剣の錆にしてあげるわ!!」


 オリヴィエのスピードがまた一段上がった。

 彼女は縦横無尽に駆け巡りながらヒットアンドアウェイを繰り返す。斬っては距離を開け、斬っては距離を開け。


 そのあまりの速さに切られている不死人も剣を受けながら上下に体を揺らす事しか出来なかった。

 本来なら太ももを斬られ、かかとを斬られた不死人は倒れる筈なのに。


 そしてオリヴィエは剣を止めて、俺達に背を向けたまま不死人を見据えた。

 不死人は攻撃が無くなったことにより、頭から地面へと前のめりに倒れる。膝が斬られて左足が無くなったのだ。


「じゃあ、これでとどめよ!」


 オリヴィエは頭上高くに剣を掲げた。

 これまでよりも強く剣が光る。

 まるで本物の太陽だ。


 俺はその光に目がやられて、何も見えなくなった。


「『太陽のごとき閃光ソレイユ・エクレール』!!」


 そして聞こえたのはオリヴィエの声と鈍い音、それに何かが割れる音だけだった。

 光が止み、俺の目も回復してきた時に見えたのは倒れている不死人の横に立つオリヴィエの姿だった。


「さあ、殺したわよ。この不死人は二度と動かないわ!」


 自信満々に言うオリヴィエの声につられて、俺とフォルミは死んだという不死人の元へ駆け寄った。


「本当に死んでいるんだね」


 俺は大地に横たわっている不死人をまじまじと見た。

 肉体が再生する様子がなかった。四肢がなく、体のあちこちが切り裂かれて立つことすらできないと言うのに。


 また俺は本当に死んでいるのか確認するために、鞘付きの剣で何度かつついてみるが動いている様子はない。

 死んだふりをsいている虫や動物ならこれで動くはずなんだけど、どうやら動く様子がないので本当に死んでいるみたいだ。


「言ったでしょ。殺したって」


「それにしても本当に殺すなんてなあ。すげえなあ」


 フォルミも俺と同じように死んだ不死人を剣でつついていた。

 そして何度から裏返って本当に不死者かどうか確かめているが、胸元に魔石があったのでこれは人ではなくやはり本物の不死者だと判断した。


「これが私の実力よ!」


「まあ、この際だから詮索はしないけど、これって大っぴらにしていいことなのか?」


「そうね。黙っていてくれると嬉しいわ。不死殺しって神官の仕事だから彼らの仕事を奪いすぎるのはよくないから」


 オリヴィエは口に人差し指を当てている


「分かったよ。と言うわけで、ルージュも秘密にしておいてくれよ」


「分かりました」


 俺はフォルミの言葉に頷きながらも内心動揺していた。

 まさかこんな近くに天敵がいるとは思っていなかったのだ。


「あ、そうよ。黙っていてよ。もしも喋ったりしたら先ほどの私の秘剣をルーにぶつけるわ」


「それって俺のような生者には通じないとかあるの?」


 もしも生者に通じないとしても止めて欲しいが。


「いいえ。効くわよ。不死者を殺せるけど、人でも普通に殺せる業だわ」


「そんな危ない技をぶつけるのは遠慮してくれよ」


「そう。残念ね。じゃあ私の秘剣を剣で試してみる。もしかしたら使えるようになるかも知れないわよ」


 オリヴィエはせせら笑いながら言った。


「黙っているから本当にやめてくれ」


 その攻撃は俺に効く。


「そう。残念ね」


 俺は乾いた笑みを出して彼女との会話を受け流しているが、実際は心臓がばくばくと激しい動悸と共に動いている。

 彼女にとっては普通の何気ない会話かも知れないけど、俺にとっては死活問題なのだ。


 俺はもしも不死者とばれたときの行動を何個か考えていた。

 彼女とフォルミを殺してこの場から逃げ出すか、それとも単に逃げ出すか、はたまた最後まで生者だと嘘を突き通すか。

 俺は胸の動揺が悟られぬようにずっと笑っている。それはきっと引きつっている不自然なものだろう。

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

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暫くは12時更新で頑張ろうと思います。

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