死出山怪奇譚集序編 〜Introduction for Eternal dream〜『Start the eternal journey 』
…異変から数カ月前の話だった。昴は王宮の庭で桜の木を眺めている。
「なぁ…、父さん…」
その木には、桜弥の魂の一部が入っていた。
「俺さ、昨日変な夢を見たんだ」
昴は桜弥の霊水晶を握り締めながら、昨日の夢の話を始めた。
周囲は真っ暗で、昴はその中に立っていた。よく目を凝らすと、見知った人々が、次々に倒れている。昴はその中で一人の男と出会った。どうやら、その男に倒されたようだった。昴はその男と戦ったが、為すすべもなく、同じように倒された。
昴の夢は、後に起こる出来事の最悪な結末だった。
昴はその話をした後、桜弥にこう言った。
「…にしてもしぶといな父さんも、魂滅ぼされたら精神も存在も滅ぶんじゃなかったのか…?」
『昴に魂滅ぼされたら死んでも死にきれねぇよ』
その声は、直接耳ではなく、心の中に問いかけるような声だった。
「そうか…」
昴は桜の根本を見つめた。
『…行くのか?昴』
「ああ…、俺は一人で旅立つよ」
『一人で行って大丈夫なの?』
桜の木の横に植えられた梨の木が、昴にそう問いかける。それは、祖母である梨乃の魂が植え付けられていた。
「ばあさんまで…、全く、俺は何時までも子供じゃねぇんだよ」
『その未来を阻止する為に行くのか?』
「ああ…、俺だって未来が視えるからな、その未来は何としても止めなければならない。それに…、照彦の事もある。
俺はいつか完全体になるんだ、そうなる為に今も強くなり続けている」
『強さを求めた先に何がある?』
桜弥がそう問うと、昴は顔に影を落とした。
「強くなればなるほど…、孤独だよ」
昴は、桜弥の霊水晶を木の下に置いて、王宮の中に入っていった。
昴は自分が旅に出る事を冥府神霊達に伝えた。一同は驚き、一緒に行こうとしたが、昴はそれを全部断った。
「ダメだ、お前らを危険な目には遭わせられない」
すると、他の冥府神霊達を掻き分けて、冥府神霊の長であるグルーチョが、自らこう言った。
「昴様、我をその旅に同行させて頂けませんか?」
「グルーチョ…、どうしたんだ?」
「我にもその一件に責任がございます、どうか連れて行って下さい!」
「そうか…」
昴は、迷わずにこう答えた。
「行くぞ、グルーチョ。お前ら、後の事は任せた」
「行ってらっしゃいませ、昴様」
昴はグルーチョと共に、窓から空に向かって旅立って行った。
その日、冥界では昼間なのに二つの流星が見えたという。だが、それが昴とグルーチョである事は誰も知らなかった。