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帽子男の短編集

変体動物

作者: 帽子男

 ある動物博士が「変体動物」を開発した。その動物はある一定の時間他の動物の姿を見続けるとその動物に変身できるのだ。虫、魚、鳥、家畜どんな動物にも変身ができる。その動物を博士が政府の役人に売りつけていた。


「このスライムの様な動物が他の動物に変身するんですか?ありえませんね。骨も筋肉もないものがどうやって変わるというのです」


「いやいや、無いからこそ変わることができるのです。論より証拠これを見ていただきましょう」


 博士は一つのケージから鳥を出して手の上に乗せた。


「なんですそれは?鳥の様ですが」


「見ていてください。一見すると鳥の様ですが、これに薬品を掛けると…」


 鳥の姿はたちまちスライムの形状に変化した。そのスライムは小さな目玉が一つあり、役人の方をじっと見つめた。博士はスライムを今度はケージの中ではなく、プラスチックの容器に入れた。


「昔から言われている、自分にそっくりな人は世界に3人いるという迷信やドッペルゲンガーはこれに似た生物から来ているのだと思われます。この動物はどんな生物にも変体出来ます。今見せた鳥だけでなく魚や哺乳類、両生類なんでもです。そして、一回変体したこの動物は薬を掛けない限りもとには戻りません」


「いかがですか。私が新しく発明した動物は」


「ふむ、確かにすごい。しかし、どんな動物にも変身できるのは分かりましたがこの動物に使い道はあるのでしょうか」


「例えばです、動物園にこれがいたとしましょう。いまや希少な動物が急に病気などで死んでしまった時、動物の死体を見せ変身させれば来た人達を悲しませることにはならないでしょう。さらに言ってしまえば動物園に本物の動物がいなくてもよくなります、これらにすべて変体させてしまえばいいのですから。ああ、エサの問題も無くなりますね。この変体動物は日光と水さえあれば生きていく事が出来ますので」


「それは素晴らしいですね。他には?」


「そうですね。動物に変態したら交尾も行う事が出来ますので、絶滅危惧種などの数を増やすことが可能です。そうそう、知性などは見た動物の物をコピーしますので動物間の意思疎通なども大丈夫です」


「これは良いものだ。さっそく買わせて頂きましょう」


 と商談は成立した。さっそく役人はその動物を使って、自分の国の絶滅危惧種を増やすことにした。研究や環境がこれ以上悪化もしくは変化しない為の物であった。もちろん動物園にも多く集められることになった。他国の珍しい動物を高い金を払って輸入する必要がなくなった事もあるが博士が行ったとおり多くのエサ代がかからなくなった事はかなり国にとっても経営者にとっても助かった。

しかしこれでは儲けとしては微々たる物だ、役人はもっと上手い考えはないものかと考えた。そして、博士の言葉の中にあったドッペルゲンガーの話を思い出した。


「そうか、思考がコピー出来るのなら高名な人間の影武者として売ることができるじゃないか」


 そう考えた役人はすぐに行動に移した。まず、変体動物の入っているケースの前にテレビを置き変態させたい人の動画を一日中見せる。動画はその人がテレビに映った物や個人のSNSで上げている物を使った。そして、一日たつと変体動物はその人に変わっていた。役人は変体動物に話しかけた。


「自分が何者かわかるかい?」


 変体動物はまだ話すことができないのか軽くうなづいた。役人は満足げに笑った。次の日彼は変態生物をコピー元の人に売りに行った。


「どうでしょう?性格、見た目はもちろんいつも読んでいる本や専門書などを与えればあなたと同じ影武者ができます。貴方は殺される心配がなくなるのです」


「素晴らしい、知識も与えられるならば完璧だ。危険な地域の視察や観衆の前での演説中、移動中の事故様々な問題を私の代わりにこなしてくれるだろう」


「仰るとうりでございます」


「さっそく、その博士に言って私のコピーをたくさん作ってきてくれないか」


「分かりました、お任せください」


 役人は檻に入れてある変体動物を客に渡し、さっそく博士の研究室へ向かった。研究室に着くとやくには博士に事情を話した。


「なるほど、人をコピーですか。面白いですがそれは上手くいかないと思いますよ」


「なぜですか?実際成功しているのです」


「いえ、形としては上手くいくでしょう。ですが、人間は賢過ぎるのです。私が話したドッペルゲンガーの話は覚えていますか?」


役人は頷く。博士はポケットに手を入れ、役人の周りを歩き出した。


「ドッペルゲンガー。つまりは自分の分身がいる、ここで問題なのはどちらが本当の自分であるかという事です。もちろん私たちは新しくできた変体動物が偽物であることが分かっていますが変態した後の人間はどうでしょう?意識が不確かなうちは良いですが自分の事を完璧に認識してしまった時どうなるのでしょうか?おそらくなり替わろうとするはずです」


「いえ、いくら似ているからと言ってそんな事は無いでしょう。変体動物はコピー元がいるのですから」


「コピーゆえのかもしれませんよ、私も初めはそう考えていました。あのように」


 博士はテレビを指さした。テレビはニュースを流していた、殺人だそうだ。ある高名な動物博士が殺されたニュースが流れていた。

 

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