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1-8 死刑囚

 独房の扉が開いた。数人の刑務官がこちらを見つめている。一番前にいた男が俺の番号を読んだ。俺は立ち上がると、刑務官たちの間に割って入るような形で列に加わり、廊下を歩く。

 しばらく歩くと、下り階段が見えてきた。地下に降り、左手の部屋に通される。正面に仏壇が備え付けられてあり、それを遮るように様々な服装の男たちが横一列に並んでいる。その中の保安課長と名乗った男が、俺が死んだ後の遺留品はどうするかと聞いてきた。

 身寄りは誰もいない、処分してくださいと答えた。

 黒い僧服の男が仏壇を前に読経を始めた。部屋の中に微かな線香の匂いが広がる。その間、俺は自分への救いではなく、彼女に対する懺悔の言葉を繰り返し頭のなかで唱えていた。

 読経が終わると、制服姿の男が最後の食事だ、どれでも好きなだけ食べていいと言ってきた。俺は丁重に断り、椅子に座ったまま男たちの話を聞いていた。

「嘉手島凛太郎君。最後に、何か言いたいことはありますか」

「飯倉あいりさんに、そしてその家族の方々に、本当に申し訳ないことをしました。死んで償えるものなら償います。死んで、あいりさんに謝ります」

 男たちに連れられて廊下に出ると、観音開きに開いていた隣の一室に通された。先ほどの部屋より小さいが、奥の壁には先ほどと同じようにはめこみの仏壇が設けられている。

 部屋の中央に立たされた俺の前に、男たちの中でも恰幅のよかったスーツ姿が現れた。どうやら、彼が拘置所長であるらしかった。

「それでは、これより嘉手島凛太郎君の死刑を執行いたします。準備の方をよろしくお願いいたします」

 俺の脇についていた刑務官が後ろ手に手錠し、目隠しをする。

 俺は暗闇の中を、手探りも出来ずに歩いていく。誰かがカーテンをひいた音がする。そして――


 俺は目覚めた。

 部屋のLED電灯が点けっぱなしになっていた。無意識に時計に目をやる。午前1時過ぎ。

 部屋の電気を消して、もう一度ベッドに横になる。心臓の鼓動が早い。目が冴えている。こめかみが脈打つのがわかる。

 俺は、何故ここにいるのだろう。

 俺は、生きてるのだろうか。

 俺は、生きてていいのだろうか。

 俺は――

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