1-7 夕餉
夏の陽はゆっくりと暮れていった。斜陽。窓から差し込む光の色が、黄色く、ほのかに赤みがさしていく。
俺は衣知佳のドアの前に立った。
「衣知佳。一緒に夕飯買いに行かないか」
「行かない。友達とネトゲしてる」
「良かったら買ってきてあげようか? 何がいい」
「お金使いたくないし、何だか悪いよ。凛にいだけ買ってきなよ」
ダイエットか? と聞くのはやめておいた。またひっぱたかれるのがおちだ。俺はキリスト教じゃない。
しかし、若いうちから絶食のくせなんて身につけさせたくない。俺は衣知佳に親心のようなものを感じていた。
冷蔵庫の中身を確かめた。今夜の分の食材ぐらいはどうにかなりそうだ。
「衣知佳。俺ご飯作るから、出来たら呼ぶわ」
「ええっ!? 凛にい、ご飯なんか作れたっけ」
「簡単なやつしか作れないけどな」
俺はありあわせのもので適当に夕飯をこしらえた。長い一人暮らしの記憶が、俺の手にてきぱきと指示を与える。手羽元の筑前煮をメインに、カットキャベツ、レトルトのご飯、インスタントの味噌汁、平切りのキウイフルーツ――。
自分の分をよそい、衣知佳の分にはいろうとしたところで衣知佳がやってきた。上下のスウェット姿で腕を組み、変なものでも見るように目を細めている。
「マジかぁ。目玉焼きすらまともに作れなかった凛にいが」
また余計なことをいう。
「出来合いの物ばかりだぞ」
「そうじゃないのもあるでしょ。あたし、料理あんまり出来ないんだよね。あの人に聞くの嫌だから……それ、教えてくれない?」
「筑前煮か。いいよ。その代わり、こないだ部屋に入ったことは水に流してくれよ。相殺だ」
「そんなのもう気にしてないよっ」
夜は静かに、ゆるやかに時を刻んでいった。