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3-43 祝福者・嘉手島衣知佳の告白

「何でその時にはっきりさせなかったの。凛にい、女心と秋の空って知らないの」

 土曜日は俺たちの高校は休みだが、衣知佳には半日学校がある。

 衣知佳の自転車がパンクしていて、母さんが行きは送れるが帰りは無理だというので、俺が片方を負担することになった。衣知佳をリアキャリアに載せ、道路交通法何条違反の第一歩を踏み出す。散々悪い事をしてきた俺が言うのもなんだが、良い子は真似しちゃいけない。

 その日は一日雨の日で、優しい雨足が身に着けたレインコートごしに全身をパタタと叩いていた。どんよりとして青白い景色の中で、淡い桃色のレインコートをまとった衣知佳は、トキソウの花弁のように目立って可愛らしかった。

「男心となんとやらという使い方もあるらしいぞ」

「何それ。あいりちゃんの他に好きな人が出来たの?」

「いや、出来てない」

「じゃあやっぱりあいりちゃんの事好きなんじゃん。凛にいって荒事好きなくせに恋愛には草食なんだね」

 何もしてこなければ概して大人しいし、好きなやつがいれば好きだと言うじゃん。

「あいりのことは好きだ。でも……俺、幸せになっていいのかな」

「どうして、そんなことをきくの」

「いや、何となく」

「凜にい!」

 衣知佳の言葉が存外強い調子になり、俺の身体は小さく跳ねた。

「この間だって、思わし気な事を言って一人であの井岡って人のところに行ったでしょ。凜にいは人殺しになるか殺されるかもしれなかったんだよ。悩みを一人で抱え込むのはなし。でないと、また頭が重くなって、変に転んじゃうからね」

「そうか。……じゃあ、俺の悩み、お前も持ってくれよ」

 そう言って、俺は吸って吐いてを二度繰り返した後、言葉を継いだ。

「俺は昔、ここではないどこかで人を殺してしまった。そのことをとても後悔して、幸せになる資格なんてないと思ってる。信じるか?」

 こんなことを衣知佳に相談しても、ファンタジーだと笑われるか、とぼけないでとますます怒られるだけだろう。

 衣知佳がしばし息を止めたのが気配で分かる。戸惑いか、怒りのどちらか。俺も数瞬呼吸を殺し、彼女の答えを待つ。

「信じるよ。私も記憶があるんだ。ここではないどこかで、産まれてこれなかったことを」

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