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3-39 ラブレター

 布を頭からかぶせられて前を歩いていた俺は、刑務官にエスコートされてそこで立ち止まる。ここが、俺の人生の最後の立場所なのだ。

「嘉手島凛太郎君。これを持っていきなさい」

 服の中に、プラスチックと思しき冷たく硬い無機物の感触が挟み込まれる。

「これは、君が先ほど断った、君の好きな食べ物を詰めたものだよ。お母さんがよく、お弁当に作ってくれたそうだね。君が反省と、これまでの人生を書き連ねていた文章を読ませてもらったよ。それもここに入っている。君は家族を愛し、飯倉あいりさんを愛していた。こうなってしまったことはとても悲しいことだが、君が悔いる気持ちはきっと神様は見ているはずだ。天国に、それを持っていきなさい。

 天国で、愛する家族とあいりさんに、それをもって謝りに行きなさい」

 俺は、涙を流し、むせぶ。そして、来る死を待ち――。


   ――――――――――――――――――――――――――


「あの時は、ありがとう」

 夏休みが終わり、二学期が始まり、10月。俺は飯倉と以前約束していたIこうフェスタに参加した。帰る途中、俺たち家族にあったあの出来事を思いだしたので、飯倉に礼を言った。

「何がですか?」

「父さんの拳銃から弾を抜いておいてくれて。あれがなかったら、きっと母さんは死んでた」

「お母さまがあの銃を使うかどうか、はっきりはしませんでした。なるべく可能性を減らすやり方をしたつもりです」

「どういう事だ? まるで母さんがそうするのを知っていたような言い方だな」

「はい。嘉手島さんに教えていただいたので」

 俺はその言葉の意味を考えた。そして、いくら考えても、そんな記憶がないことに気づく。

「俺が? 飯倉、俺はお前に井岡と母さんの仲を疑っていることは教えたが、そんなことを言った覚えはないぞ」

「言ってはいません。――嘉手島さんは変な人ですね」

 おいおい。いきなりモラハラのジャブを打ち込んできたぞこの生き物地球奇行女。

「まあいいさ。早く帰ろう、今日は半袖じゃ寒いぞ」

 俺が振り返って家路に着こうとしたその時、俺の両脇の下を背中から何かが素早く通りぬけていった。それが飯倉の両手と気づくのに、数瞬の間が必要だった。

 俺は、飯倉に背中から抱きしめられたのかと思った。そうではないと気付いたのは、俺の目の前にあった飯倉の手が、数枚の大きめの紙の束を握っていたからだった。

「私、私を殺したという人からラブレターをもらうなんて、生まれて初めてです」

 俺は言葉を失った。

 それは、俺が刑務所で書いていた、自分の生涯をつづった便箋だったからだ。

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