表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/81

3-32 咎人

 強い日差しが、俺のいる日陰とその先の日向のコントラストを際立たせていた。

 山あいにある町はずれの、廃業になって久しいガソリンスタンドの敷地。日よけのつもりでひっこんだ天井のある給油スペースも、34℃の熱気に対しては気休めにしか感じられず、俺は持ち込んだペットボトルのお茶を何度も口に運んだ。




「凜にい」

 深夜過ぎ。みんなが寝静まったと思っていたリビングで、隅の夜闇から俺を呼ぶ衣知佳の声を聞いた。

「衣知佳か。どうしたんだ」

 衣知佳の方は振り向かずに、俺は母さんの部屋からそっとくすねたスマホを走らせる。ラインで、井岡典史を見つけて通信を行う。

 ――明日の昼1時に、〇市のガソリンスタンドで待合せましょう。大事な話があります。

 意外にも、母さんと井岡のチャット履歴に、愛のささやきや逢瀬をにおわせる言葉は見当たらなかった。数か月前に友達予測からつながり、母さんが井岡の身を案ずるやりとりと、引き取りたいものがある、会って話す、との井岡の提案の言葉が連ねられていた。俺は母さんに対する怒りと、それを倍加しても足りないほどの井岡に対する憎しみをあらたに、返事を待つ。

「あいりちゃんからチャット来てたよ。凛にいと話がしたいって」

「代わりに言っておいてくれ。これは家族の問題だ、お前が口をさしはさむ問題じゃないって」

「喧嘩したの?」

「いや? 今、俺たちが取り組んでいる問題の事だからさ」

「うん。――あ、返事きた。じゃあ私も家族にしてください! だって」

 ふざけるな。俺は本気で怒ってるんだぞ。天然だと分かっていても、あいつの無神経な言動に我慢できない時がある。

 背中で衣知佳が飯倉との会話を続けているのにはかまわず、俺は目の前の事の動静に神経を集中させた。

 しばらくして、井岡の返事が来た。

 ――大事な話って何? 正太郎の事?

 俺の口元がいびつにゆがむ。何が正太郎、だ。お前は、お前を大切にしてくれた人を裏切ったんだ。その報いは受けてもらう。お前の子供である、俺の手で。

 それもあります、詳細はあってから話しましょう、と言葉を切って俺はスマホを置いた。念のため、これももっていかないといけない。でないとすぐに母さんが事の異変に気付いてしまう。




 もうすぐ予定の時間だ。

 俺は一つ深呼吸をすると、自分のスマホを取り出し、父さんに電話をかけた。お別れを告げたかった。

 仕事中のはずだったが、2回目のコールで電話に出てくれた。

「おう、どうした凛太郎」

「父さん、俺のこと信じてる?」

「もちろんさ。俺は、俺の大切な人たちをみんな信じてる。そうやって生きてきたぞ」

「これから俺のやることには、意味があるんだ。俺は、それを正しいと思ってやるんだ。父さんたちに迷惑をかけるかもしれない。でも、これが父さんや母さんの命を守るためでもあるんだ。分かってほしい」

「待て、凛太郎。どういうことだ」

「俺、父さんの事、誇りに思ってるよ。今までありがとう。もう一度会えてうれしかった。――さようなら」

 俺は通話と、電源を切った。母さんのスマホは、既にオフにしてある。

 井岡典史を殺す。

 そして、俺も死ぬのだ。

 そうすれば、父さんも、母さんも、飯倉あいりも死ぬことはない。

 それが、神が死刑囚だった俺にもう一度の人生を与えてくれた理由なのだ。

 俺の頭の中で、井岡の犯した母殺しと、俺が犯した飯倉あいりへの殺人が交差する。

 人殺しの息子は、所詮人殺しなのだ。相討って死ぬことが、世の理なのだ。

 井岡の車が、敷地に滑り込んできた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ