3-27 イチカ
様々な四角が取り入れられたデザインの二階建て。それが井岡典史の住まいだった。
警察によると、井岡はほとんど家に寄り付いていない。それでいい、俺は直談判しにきたわけじゃない。俺は道を大きくぐるりと回って、家の外観や窓の配置を確認していった。
二周して門の前に戻って来たところで玄関先の扉が開き、線の細い白髪の老女がじょうろを手に現れた。犬走りに置いてあった鉢植えたちに水をやり、家の中に戻ろうとしたところで俺の姿に気づいて動きを止める。
「あなた……」
そう言って目を見開き、洋風の門を内開きにあけ、俺を中に招いた。
「俺ですか?」
突然の事に俺は言葉もなく小さくうなずくと、彼女に従って家の中に足を踏み入れた。
3LDKの二階建ては一階に納戸が多く、逆コの字に細く廊下が続く玄関ホールへの採光のためにその戸は開け放されていた。左、右と直角に曲がって廊下の横手についた階段から二階に上がり、そこのリビングへ通される。
椅子に腰を下ろしてタレントの旅歩き番組を見るともなく見つつ、部屋の家具や配置に気を配る。ちょっと下見のつもりで明るいうちからここにやってきたのだが、思わぬ僥倖にあったようだ。
蜂蜜をかけたフレンチトーストとアメリカンコーヒーを俺の前に置くと、老女はささやくように口を開いた。
「正太郎くんのところのお子さんでしょ? 嘉手島さんの」
思わず口に持っていきかけたカップを落としそうになる。やはり、井岡典史は父さんの親友なのだ。居住まいを正し、はい、と短く答えた。
「お名前は?」
「凛太郎です。凛として生きていてほしい、との願いを込めて」
その凛太郎は一度ドブのような人生を送ったのだ。情けなさに、少しだけ自分の目じりがうるむ。
「正太郎くんはうちの子と小さい頃から仲良くしてくれてさ。友達のいなかった典史はとっても正太郎君に感謝してたんだよ」
その話は以前おばあちゃんから聞いたことがあった。
「典史さんは、今、ご在宅ではないのですか?」
老女の笑顔に悲しい影が差した。
「さあね。どういうわけか知らないけど、悪い奴らとつるんで家を出て行っちゃったんだよ。すぐに上手くいかなくなったみたいだけどね。それでも、ほとんどこっちに帰ってこなくてさ。今、どこに住んでるんだろうね。出ていく前に、正太郎が来ても、自分のことは知らないって伝えてくれって……どうしちゃったんだろうね、悪いことの出来るような子じゃないのに。天国にいるお父さんや衣知佳も悲しむよ」
俺は今度こそ、カップを手から落とした。びっくりしてこちらを見つめる老女の丸くなった目と、俺の呆然とした目が合う。
「衣知佳……?」
「衣知佳? うん、私の娘だよ。典史達が高校生の頃に、死んじゃったんだけどね」




