3-20 決意
男たちのグループは俗にいうハコ師で、電車専門のスリを生業としている人間達だった。
最初は男たちの行動にまじってスリ役への注目をそらす役目に徹していたが、やがてお前もスリをやってみるかという話になった。
初めの内は際限なく湧いてくる不安に心が潰れそうだった。が、やってみるとこれが上手くいった。
「確かに俺たちがやりやすい奴を選んでるのもあるが、お前にはセンスがあるぜ。ハコで終わらせとくのももったいないかもな」
皮肉な話だ。警察官の父にあこがれてそれに邁進していた男が、それとは対極のところで才能の花を開かせようとは。
犯罪に手を染めた男たちは孤独な人生を歩むものも多いが、横のつながりが出来ているものも多い。扱うものは違えど、皆すねに傷もつ人間としてのある種の身内感覚を持っている。もちろん、気を許してはいけない。どいつもこいつも、自分の手を汚さずに他人を出し抜こうと舌を伸ばして待ち構えている奴らだ。悪そうな奴は大体友達どころではなく、悪しかいない。
いつぞやの若者を睨みつけていた男は俺の事を大層気に入り、地元で名のある泥棒稼業師たちに俺を引き合わせてくれた。彼らは俺の事を快く受け入れてくれたようで、いろんな話を聞かせてくれた。中でもノビ師の男は70に手が届く老齢で、俺の事を我が子のように思う一方、自分の培った才能がこのままなくなってしまうことに不安を覚えているようだった。
ある日、俺を気に入っていた男が死んだ。知らずに暴力団のシノギ(収入源)とかすってしまい、制裁を受けたのだ。その日から、残り二人の仲間も現れなくなった。自分たちも巻き込まれるかもしれないと逃げ出したということを、後になって知った。
一人になった俺は、それを機にノビの男に弟子入りをするようになった。どこから持ってきたのか四角い枠に嵌められた窓ガラスで、基本となる三角割りの練習から始めさせられた。男はその出来ぶりの他にも色んな事に完璧さを求め、俺は何度も叱咤されたが苦にはならなかった。悪として映えることで、父さんを捨てたあいつらを何かしらの形で出し抜きたかったのだ。
男は俺に一通りの技術を授けると、それを皮切りに引退したというように覇気がなくなった。人に何かを託すというのは、こういうことを言うのだろうか。そう思うと、俺のような人間のために、何だか悪いような気もしてくる。
こうして俺は、泥棒稼業の賊として、ただの一度も捕まることもなく、あの運命の日を迎えることになる。
死刑を言い渡された俺は飯倉や父さんたちに悔いると共に、自分自身と改めて向き合い、ある種の救いを感じていた。俺自身が一番このような人生を望んでいなかったのだ。どう紆余曲折を経てあがこうと本当の俺は幸せな家族に包まれ、あこがれの父と同じように警察官になって飯倉のような幸せになるべき人たちの一助となりたかったのだ。
それを、他ならぬ俺が、俺の手でみんなの命を奪ってしまった。
償いたい。出来るものなら。
そうして今、俺がここにいる。
何たる天の配剤か。俺のような人間が、こんな奇跡を受けてよいものなのか。
だが、こうして神に機会を与えられた以上、俺にはやらなければならないことがあるのだ。
みんなの幸せのために、俺は動き出さなければならない。




