3-13 一宿一飯
俺は衣知佳の夕ご飯を作っている。中学生だし、一食抜いたからどうこうって事はないだろうけど、俺の感情的などこかがそれをよしとしなかったし、何より衣知佳の態度が気になった。俺の記憶にある衣知佳の姿は一か月程度のものでしかないが、普段ああいう態度をとる子ではないのは分かる。
肉ときのこの炒めを卵でとじたもの、ベーコン巻きのミニトマト、あさつきのみそ和え。あとは出来合いの物でそれなりの見場を作る。
一通り出来上がったところでラインを開く。
――起きてる?
メッセージを打つと、すぐに既読がつき、うん、と返事が来た。
――ご飯作ってあるから、食べたいときに取りに来て食べな。
――お母さん、まだそこにいるの?
――二人とも寝てるよ。
程なくがちゃりと鍵が開く音がし、ドアの隙間から衣知佳が顔を出した。手刀を切ったままテーブルの上に置かれたプラスチックトレーの中の料理をおずおずと受け取ると、そのままの姿勢で開きかけのドアを尻で押し開けて中に入っていく。
「部屋に入っていいか」
俺が声を潜めて言うと、目を丸くしてうんうんとうなずく。まるでサイレント映画のコメディ俳優だ。
「いただきますっ」
仏壇に向かってそうするように俺に手を合わせると、衣知佳はトレーの上の物をたいらげはじめた。
「冷蔵庫にデザートもあるぞ。――ああ、この時間だと太っちゃうな」
「どうせあと30年たてばみんな身体だらしなくなるから平気、平気」
お前はまだその半分しか生きてないだろ、と心の中で笑って俺はプリンをとりに腰を上げた。
「あ、でもあのプリン6個入りでしょ? 凛にいも一緒に食べようよ」
「俺は良いよ、そんなにお腹空いてないし。衣知佳が食べたいんなら、俺の事は気にせず先に食べちゃいな」
衣知佳が不敵な笑みを浮かべて立てた人差し指をチッチッと横に振る。
「駄目だよ凜にい、そんな迂闊に死亡フラグみたいなこと言ってたら命がいくつあっても足りないよ」
プリン一個二個とるぐらいで命とられてたまるか。
死にたくなかった俺は人数分のプリンとスプーンをもって衣知佳の部屋へ戻った。もう少しゆっくり食べな、といったものの衣知佳はうんうん、と頷くだけでとても遅い夕飯を限りなく早く平らげていく。
「ごちそうさまでしたっ」
「お前、ご飯食うの早いなぁ。胃に悪いぞ」
「ネトゲのフレを待たせるのが悪いから、早く食べちゃうのが癖になっちゃった」
首筋の後ろをかいてふふっと笑う。




