表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/81

3-12 亀裂

「衣知佳! お母さんにそんな口をきくのはやめなさい」

 父さんの一喝に初めて二人は俺たちの帰宅に気づいたようだった。母さんは唇を震わせて衣知佳をにらみつけ、衣知佳は不満げに目を伏せる。

 俺は家族三人のトライアングルの中心に割って入るように、間に立つ。

「父さん、衣知佳の口の利き方が気になるのは分かるけど、ここはまず二人の言い分を聞こう」

「二人とも、どうして喧嘩してるんだ。こんなに服を散らかして」

「私が衣知佳に、かけっぱなしだった冬物しまうよって言って部屋に入ったら、急に怒って服を投げつけてきたのよ」

「勝手に部屋に入ってこないでって言ってるの。人の物も触らないで。それでも何かやりたいんだったら、部屋の外でやってよっ」

 衣知佳の言葉の最後は金切り声のような怒声で、リビングに緊張が走る。

 父さんが先ほどの剣幕とはうってかわって、たしなめるような口調で衣知佳に語り掛けた。

「衣知佳。お母さんは悪気があってそんなことしてるんじゃない。お前の為を思ってやってるんだ。それは分かるだろう」

「誰もそんなこと頼んでない。やりたかったら自分でやるし、助けが必要だったら自分で他の人に頼むから」

「どうしてそんなにお母さんにつらく当たるんだ。お母さんはお前を愛してるんだぞ。かわいそうじゃないか」

「愛してるってどういうこと?」

 衣知佳の瞼に涙がたまっていた。天井から注ぐLEDの光をキラキラと反射してきらめく彼女の瞳が、口にした言葉と相まって一種のリリシズムを感じさせた。

 その強い眼差しにまっすぐ射竦められ、父さんがしばし次の言葉を返せずにいると、衣知佳はその視線を母さんに向けた。

「あんたに言ってるんだよ」

 吐き捨てるようにそう言うと、自分が投げ捨てた服を手早く拾い集め、自室へと戻って乱暴に戸を閉じる。

「衣知佳、ここを開けなさい。お母さんに謝るんだ」

 父さんがドアに飛びついた時には、既にノブには鍵がかけられていた。

「もう、ほっといてよ!」

「駄々をこねるのもいい加減にしなさい! 悪い子だ」

「父さん」

 俺は父さんの肩を掴み、振り返ったその顔に首を小さく横に振った。父さんは俺の視線をしばし真っすぐ受け止めると、ふうっと長い一息をつく。

「そんな悪い子には、晩ご飯はなしだからな。反省しなさい」


 旅行帰りともあって、嘉手島一家は夕食とお風呂を済ませると早々に床に就いた。

 草木が果たせない宵っ張りをしているこの時間に、ダイニングで動くものがいる。

 俺だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ