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3-8 忘れえぬ人

「典史は俺の特別な友達だった。それは否定しないよ」

「典史さんって人、死んだの?」

 背後から声が聞こえる。振り向くと、いつの間にかお風呂から上がった衣知佳がコードレスのヘアアイロンで髪を整えながら首をかしげている。

「いや、死んじゃいない。……そう信じたい。何せ、突然いなくなってしまったからな」

「飯倉。衣知佳あがったみたいだから、先にお風呂に入ったらどうだ」

 勧めたが飯倉はそれには答えず、両手で頭を抱えるようにしながら写真を見つめている。

「この縁日、毎年いつ頃やっているんですか?」

 飯倉の言葉に、おばあちゃんはしきりにうなずくと、壁掛けカレンダーの日付を指と目で追った。

「えーと、確かね。再来週の土、日だね。この写真は、日曜日に三人で中谷浜神社の縁日にでも行ってみるかっていうから、仕事が休みだった私が撮ってあげたんだよ」

「三人じゃない。四人、って言ったよ俺は」

「その神社、ここにいる間に行ったりする?」

「そりゃそうだ、凛太郎。俺たちにとっても、お前たちにとっても、大事なところだからな」

 何がどう大事なのか分からない。衣知佳の方を見ても、俺と似たような反応だ。

「お参りでもするの?」

「そう。家族にとって節目となる大事なことがある時は、事前にそこでお参りをしてきたんだよ。今年はそうだな、衣知佳の高校受験の合格祈願といこうじゃないか」

「そのお参り、私もついていってもいいですか?」

「もちろんだよあいりちゃん。あいりちゃんがお願いしたら、衣知佳も開成にだって合格するかもしれない」

「お父さんまた馬鹿なこと言ってる。私、美山丘にしか行かないからね」

「そうか。衣知佳もお兄ちゃんと一緒の学校がいいのか」

「お父さんのパンツと一緒に洗濯するのとは違うからね」

 衣知佳の言葉に父さんがよろけて俺の肩を掴む。今にも泣きそうに瞳の光が揺れているのを見て取ると、「嘘、嘘。お父さんかわいい」と衣知佳はコロコロと笑ってこちらへ手を仰ぐようにひらひらさせた。

「お義母さん。私、そろそろ洗い物してきますね」

「いいんだよ。それは私がやっておくから、美里さんはどうぞ夫婦水入らずでいてちょうだい」

 おばあちゃんの言葉にありがとうございます、と頭を下げつつも、母さんの表情はどこか煮え切らないというか、沈鬱だ。もの言いたげな横目を父さんに投げかけている。

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