3-7 スイートメモリーズ
帰途の途中にあった売店でソフトクリームを買い、バニラの香味と甘みを口にしながら家についた頃には、空は蜂蜜色の優しい夕暮れを迎えていた。
山の端に落ちてゆく太陽の残光を見て、幼稚園児の頃に、太陽も仕事を終えて家に帰ろうとしてるんだよ、だからバイバイしなくちゃね、と母さんに言われたのを思い出した。郷愁に誘われた俺が手を振ると、途端に衣知佳の好奇に満ちた目に捕らえられる。笑われるな、と思ったが、意外にも衣知佳は俺の視線を追って同じように手を振った。背後にいた飯倉が後に続く。
「人間って、誰も自分を知らないところに行くと、子供になれるよな」
「何言ってるの。私たち、子供じゃん」
玄関先で帰宅を告げると、夕餉の香りとお帰りの声が出迎えた。キッチンでおばあちゃんと母さんが談笑しながら、夕食の仕上げに取り掛かっている。実の親子のように仲良さそうである。
すき焼き鍋をつついて舌鼓を打った俺たちは隣の和室でトランプに高じた。そのうちに風呂の順番がやって来て、衣知佳の番になった。
「家族と一緒にどこかいったりしないのか、飯倉は」
「行きますよ。でも、私のところはいつでも行けますし、嘉手島さんとはまた一緒にいけるのか分からないですから」
そんなこと言ってるけど、どうせ強引についてくるだろうお前は。
「行けるときにいった方がいい。いつでも行けるなんて思ってたら、いつかあっという間にすべてを失うこともある。そうなってから後悔しても、遅いんだ」
飯倉の寂しそうな眼差しが俺をとらえる。俺は目のやりどころに困り、テレビを点けてひな壇番組の芸人をじっと見続けていた。
しばらくそうしていると、リビングの方でおばあちゃんの楽しそうな声に合わせて、父さんの困ったような声が上がった。おばあちゃんがテーブルの上にアルバム帳をおいて、両親に昔の写真を見せていたのだ。
「凛太郎ちゃんが生まれる前の頃だよ、正太郎。覚えてるかい?」
「懐かしいけど恥ずかしいなぁ」
「こう見ると、だいぶ変わったわね。お父さんも」
苦笑いで頭をかく父さんと、優しく目を細めて写真を見つめる母さん。その二人の間に頭を突っ込むような形で、俺はアルバムの写真を見た。
どこかの神社の縁日らしき背景に、三人の人間が写っていた。全員、20代の中頃からもう少しいった程度だろうか。全員浴衣姿で、赤い天狗のお面を頭につけた父さんを真ん中に、向かって左手に白い羊のお面を頭につけた母さん、そしてもう一方に、黄色い羊のお面を顔につけた男らしき姿が写っている。父さんはお酒を飲んでいるのか、顔を赤くして上機嫌に、首をかしげて男のこめかみに頭をつけて笑っている。上機嫌な赤鬼。若い男の顔はお面に隠されて見えないが、彼も父さんの方へ首を傾げ、仲の良さそうなのが見て取れた。
「この写真は誰が撮ったの?」
「私だよ」
俺が聞くと、おばあちゃんはにっこりとほほ笑んだ。
「典史、どこに行っちまったんだろうな」
父さんがポツリと呟き、写真の中の男を食い入るように見つめる。母さんはそんな父さんの様子を、上目遣いに見つめている。
「この、右に写ってる人の事?」
「ああ。親友だよ」
「正太郎と典史君は中学生時代からの大の仲良しでね。何をするにも二人一緒。いじめられっ子だった典史君を正太郎が助けてたりもしたんだよ」
父さんが俺の目を見て頷くのに合わせて、おばあちゃんが補足してくれる。
「そうはいっても、典史にはもっとしっかりしてもらいたくてさ。これでも色々叱って言い聞かせたりしたもんだよ」
「正太郎は典史君の事が大好きだったからねぇ」




