3-6 everybody does .
衣知佳と飯倉に引き上げられて、俺は事なきを得た。二人のいうところによれば、真っすぐたてば足の着くほど浅いところだったらしいが、そんなことは泳げない俺にとっては関係ない。
「あんなことして、他人様にぶつかって怪我でもさせたらどうするんだ」
「大丈夫。やるときは凛にいの方むけてやるから」
「誰もいないところでやれ!」
「でも衣知佳さん、楽しそうでした。私も乗ってみたいです」
「お前、誰かさんの身に起こった事と人の話を見てた、聞いてた?」
二人は俺の困った顔を見ると、何を意気投合したのか自分たちの顔を見合わせて含み笑いをし出す。まるで妹が二人になった気がする。ついこないだまで俺の記憶の中には一人もいなかったのに、だ。
衣知佳は手に持っていたビート板を砂浜に敷くと、クラシックバレエのように片足を後ろに浮かせてもう一方でその上に立ち、両手は左右にまっすぐ伸ばして飛行機のようなポーズを取った。
「凛にいもやってみればいいのに。落ちたら私が引き上げてあげるからさ」
「みっともなくあたふたしてずっこけるのはごめんだ」
「どうして? 海の中なら落ちても痛くもないし、姿も隠れる。硬い地面に躓いた方が痛いし、目立つと思うけどなぁ」
「地面は海の上と違って、そうそうこけやしないだろ。小さい子供じゃあるまいし」
「違うよ」
衣知佳の声のトーンが落ちた。普段の子供のような幼さが息をひそめ、静謐ささえ感じる、ささやくような声音が俺の胸の内に優しく届いた。それはまるで、彼女の心のどこかにしまってあった、純粋な本当の部分が顔を出したように思えた。
「子供は体に比べて頭の比重が大きいから、よく躓いて転んじゃう。それは正しいよ。でもね、大人だってしょっちゅうこけてるんだよ」
ませたことを衣知佳は口にする。俺はそれに対して異議は唱えず、彼女の言うがままにさせた。
「大人って、……私たちだってそうだけど、ずっとずっといろんなこと考えてるよね。考えて、考えて、考えすぎて。そしたら、いつか頭がいっぱいに膨らんで、子供みたいになっちゃうんだ。だから、常識のある大人の人でも、間違いをおかすんだよ。頭が重くなってたら、どんなにしっかりした地面の上を与えられて、そこを進んでいたとしても、ある日突然転んじゃう。これは、みんなそうなんだよ」
衣知佳の瞳に俺の顔が映る。どんな表情をしていたというべきだろう。優しくとがめられ、でもどう答えれば相手の期待に添えられるのか分からずにいる、子供の顔とでもいおうか。
俺は、この世界の誰もが知るはずのない、過去の罪を重ねた自分の姿を、衣知佳に透かし見られたような気がした。
「あたしも、お父さんも、あの人も……そして、凛にいも。それは、同じだと思う。だからね、私、あんまり一人で考えすぎないようにしてる。そうじゃないと、あっという間に重たくなって、大怪我しちゃうかもしれない。どうしても一人で抱えきれない悩みは、誰かに伝えて、一緒に持ってもらうことが重要だと思うんだ」
「そうですよ、嘉手島さん。自分一人で抱え込まないでください」
俺の心の内など知る由もないだろうが、飯倉が突然俺に詰め寄ってくる。俺は静かにほほ笑んで答える。
「じゃあ、俺がどうしても抱えきれない悩みを持ってる時は、飯倉に聞いてもらおうかな」
「信用できません!」
どう答えりゃご満足いただけますかね。




