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3-5 グレート・ブルー

 朝一番から特急でむこう最寄りの停車駅まで向かい、そこからローカル線で7駅ほど流すと、目的地の駅だ。

「見て! 海だよ!」

 衣知佳が弾んだ声を上げて、小さい子供のように窓外の景色を指さして笑った。伸びるに任せた雑草が連綿と続く、その隙間から、黄白い砂浜と青黒い海と水平線が覗き見える。

「いいだろう。車からだとこの景色が見れないからな。これを見せたかったんだよ」

 平日の午後は客足もまばらで、バカンスでどこぞへ足を運ぶのには最適に思えた。俺は重い荷物を、他のみんなは軽い荷物を(当日気づいたことだが、色々沢山準備をしていたのは俺だけで、「お前一週間でそれを全部やるつもりか」と父さんにまで呆れられた。大変遺憾である)地面や金網の上に置いて、鑑賞と談笑にそれぞれふけっていた。

 このあたりは、海に面した山の緩やかな傾斜に居を構えるように街が作られている。駅南口の出口からぐるりと回り込み、踏切を越えて北進すると、なだらかな坂道にさしかかる。そこをしばらくいって道をいくつか折れると、おばあちゃん家だ。土地坪40ほどの、昔年からの歴史がその表に刻まれた和風二階家。

「はい、いちばーん!」

 衣知佳が門のチャイムを鳴らしてこちらに勝ち誇った笑みを向ける。

「よく来たねぇ、みんな。ああ、この子があいりちゃんだね。よろしくね。ささ、ここは暑いだろう。おあがんなさい」

 玄関先で出迎えてくれたおばあちゃんに続いて家に入ると、外見とは裏腹の、明るくモダンにリフォームされたバリアフリー完備の室内が俺たちの目を輝かせた。外見とそのままでもそれはそれで趣はあったと思うが、これはこれでいいかなとも思える。腸内洗浄、という俺にはまだ縁のなさそうな言葉が頭に浮かぶ。

「海いこっ、海っ」

 用意されていた昼食を手早く済ますや否や、衣知佳はそう言って俺と飯倉の肩を叩いた。飯倉は目を輝かせてうなずき、俺は目をどんよりとさせてうなだれる。泳げない上に、疲労と胃の中の消化物を抱えた状態で海に行くのはきつい。まぁ、疲労は自業自得なんだけど。

 俺がモタモタと服を脱いでいる間に、二階で着替えを済ませた衣知佳が部屋に飛び込み、悲鳴を上げてとんぼ返り。ノックはマナー、これは常識。

「終わったー?」

「終わったぞ。俺の部屋に用か」

 答えるや衣知佳が部屋に駆け込み、俺のバッグの中身をあさる。俺が面食らってそのまま見ていると、何という事か、奴は俺の大事なビート板と浮き輪をピンポイントでつかみだして背を向けた。

「おい、こら。それは俺の大事なものだぞ」

「モノジチ、モノジチ。ほら、凜にいもはやく!」

 俺は溜息をついて二人の後を追う。花柄のアメリカンスリーブビキニの衣知佳はなるほどあいつらしかったが、浅黄色のフレアバンドゥビキニの飯倉は俺の目にとても新鮮に映った。もっとクソ真面目なファッションを想像していたのだ。まぁ、俺も海には縁もゆかりもないくせにサーフパンツなどを穿いてはいるが。

 やはりというか、平日の海は人影がまばらだった。見かけるのも、恐らく涼みに来た地元の住民だろう。

 俺が浮き輪をふーふーと膨らませている間に、二人は自前のビーチボールをぶつけあって悲鳴を上げている。

「元気なこってなにより」

 身体と心の疲れをぱんぱんに詰めた浮き輪で俺がT字にぷかぷかやっている頃には、ビート板の上に乗ってサーフィンもどきをやり出した。小学生かよ。

 両手を空に泳がせてバランスを必死にとる衣知佳の姿が、こちらにぐんぐん近づいてくる。

「おい!」

 激突! 沈没! 映画のタイトルにそんなのがあった気がする。

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