3-3 スイミングスクール
「嘉手島さん! もっと強く掻いて下さい! それじゃ沈んじゃいます!」
……。
「凜にい、変なところで上体上げすぎ! 手をこう、前にやっているときにふわって首と体を横に向ける感じ! 足、沈んでる!」
……。
「もっと大きくです! 掻いてから身体を一番伸ばしてる時に息をつぐんです!」
分からない。
分からないところが、分からない!
俺は必至でもがくのをやめ、足をついた。
「俺は、おのれの全てを出しきった。――飯倉、何メートル泳げた?」
「4メートルです!」
「これは浮き輪が必要ですなぁ」
二人の言葉が胸に突き刺さる。へっ。いいよいいよ。浮き輪はいつでも友達だよ。
「もうお昼だね。そろそろ切り上げて、ご飯食べて帰らない?」
「はい。そうしましょう」
上機嫌な二人に不機嫌なサイドオプションが一つ。
ファミレスで日替わりランチを食していると、ポケットの中のスマホが震えた。ラインから家族のグループチャットが来ている。
――あいりちゃんとは仲良くしてるか? 凛太郎。
俺は深くため息をついた。衣知佳がくつくつと肩だけを揺らして笑う。飯倉はそんな俺たちの様子を、ぽかんとした表情で見ていた。
――普通じゃないかな? むこうはどう思ってるか知らないけど。
――こんなこと言ってるけど、凜にい尻に敷かれてるから。あいりちゃんのいう事なら何でも聞くんだよ。
「おい、余計な事を書くな」
俺が横から指で脇腹を突くと、黄色い悲鳴を上げる。
――セクハラされた、セクハラ!
――お前が煽るからだろ、脇腹を突いただけだ。
――二人とも仲良くなったな。ちょっと前は挨拶一言すらしなかったのに。
――www いややっぱりさぁ、人間って日々成長するじゃん?
――おほめにあずかり光栄です、衣知佳お嬢様。
――冗談はそれぐらいにして、みんな、明日は早いぞ。凛太郎、お前の荷物、リビングに出しっぱなしじゃないか。そろそろ片づけないと、明日までに準備が済まないぞ。
「そういえばそのままで来てたね。そろそろ帰ろうか?」
衣知佳の提案に俺は頷く。
「飯倉。それじゃあ俺たちは先に帰る。ご飯代は俺たちで払っておくから、ゆっくり食べてていいよ」
あっけにとられている飯倉を尻目に、俺たちは会計を済ませて店を出た。冷房のよく効いていた空間から、むせかえるような緑と熱気の中へ。俺たちは自転車にまたがるとひたすら実家を目指して立ち漕ぐ。
家の玄関の前で父さんが車を洗っている。俺たちが手を挙げて帰還の知らせを告げると、父さんが俺を指さして言った。
「こら、凛太郎! 道路交通法55条違反だぞ!」




