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2-20 スクールズ・アウト

「拘置所の楽しさを熱弁してもらって悪いがな」

「楽しくて行くわけじゃありません! 私は真剣です」

 じゃあ何でそんなとこに行くのよお前? 俺は一つ咳ばらいをして、言葉をつづけた。

「夏休み、俺、家族と一緒にばあちゃん家に行かないといけないからさ。一緒に行けないかもしれない。そのフェスタは、何日公開なんだ?」

「七月末です」

「俺のところも、七月終わりから八月初めまでむこうなんだ。父さんが担当している事件も、もう少しで犯人の足取りがつかめるだろうって話だし、延期はないと思う。悪いな」

 飯倉の不満そうな上目遣いに俺がごめんねと手刀を切る中を女子が通りすぎた。口元に手を当てて目を丸くして、俺の顔を見ている。

「どうしたんだ?」

「嘉手島さん、ここ、女子の洗面所です」

 一足飛びに向かいの男子洗面所へたどり着く。

「そういうのは早く言ってくれ」

「でも、嘉手島さん、女装されてたので、私、てっきり」

「あー、……あれは、違うんだ。誤解させてすまない」

「じゃあどうして平気で入ってくるんですか!」

「誤解だって! 頼むから味方になってくれ!」

 ポケットの中でスマホが震えた。震え方からしてラインだ。

「すまん。連絡来たからこの辺で」

 俺は男子トイレ個室に引き込むと、スマホの画面に指を滑らせた。衣知佳だ。確か、あいつも試験だと言っていた。

 ――凜にい、おーっす。

 ――おー。試験どうだった、そっちは?

 ――全然いけたよ。みんな九割じゃないかな、凜にいのおかげ。ありがとうね。

 ――俺じゃなくてもともと衣知佳の頭がいいんだよ。生まれる前の事までずっと覚えてるんだから。

 ――神様にも感謝しなくちゃね。100%とまではいかないけど。

 ――賢い奴は妙な言い回しをするな。

 ――へへへー。でも感謝してるよ、神様には。もちろん凛にいもね。

 ――ありがとう。ところで、あれからお前、クラスのみんなとは仲良くやれてるか?

 ――うん。もう問題ないよ。奏絵ちゃんも杏子ちゃんも、あれからとても仲良しで、クラスの雰囲気もだいぶ良くなったよ。

 ――それは良かった。めでたしめでたし、だな。

 ――ほんと、それ。あ、そろそろこっちも休憩終わるから。話つきあってもらってありがと。またねー。

 ――はーい。

 俺はスマホを閉じ、次に目を閉じ、用を足した後でチャックを閉じた。

 チャイムが鳴る。期末試験は終わった。授業は午前で終わりで、部活がなければ昼食を食べて帰ろうがそのまま家に戻ろうが自由だ。

 先ほどラインで衣知佳が残した言葉が頭にリフレインする。神様に感謝している、と。

 俺も、神様に感謝すべきだろうな。こうして俺が昔に戻り、普段通りの平凡だった学生生活を、高嶺の花だった飯倉あいり(実際は高嶺どころか大気圏までぶっ飛んでる人間だったが)とこうして話をして共に時間を過ごせること。平和だった今の世界で生きていられることを。

 神様は、俺を哀れんだのだろうか。俺の悔悟する姿を見て、もう一度人生をやり直させようと考えたのだろうか。

 もしそうであれば、今度こそはきっと、俺はもっと人の為になるような生き方をしたい。罪を犯したこの手ででも、飯倉あいりのために何か出来ることがあるのなら、それをしたい。先ほどの飯倉の不満げな顔が思い浮かび、胸に痛みが走ったような気がした。

 ラインがチャットを受信する。見ると、飯倉からだった。

 ――さっきの話、まだ終わってないです。教室で待ってますので、ご飯を食べながら話しましょう。

 俺は苦笑した。相変わらず、言葉は丁寧なのに強引だ。衣知佳とは真逆。でも、繊細だ。それは、衣知佳も飯倉も変わらない。

 ――分かったよ。次のフェスタの日程を教えてくれ。空けておくから。

 夏休みが、始まろうとしていた。

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