2-19 フェスティバル
一学期期末試験。黒板に書かれた私語厳禁の注意文を謹厳に守る生徒たちの姿を尻目に、セミの規則的な鳴き声が囃し立てるように教室内へ響き渡っていた。それは肌着を湿らす汗とは別に、不愉快なシャワーとなって俺たちの頭や首をなめるように洗う。
この学校は公立高校の教室のほとんどにエアコンが設置されている全国の現状を鑑みに鑑みて、無視を決め込んでいる。マイゾウキンため込んでるんだよ、と誰かが大時代的なことをぼやいていたのを思い出す。
試験の首尾は問題なかった。どれも予習、復習をやっておけば楽に頭に定着できるものばかりだ。昔は勉強をするのが嫌だった、勉強できる時間のありがたみが分かるのは自分の人生のタカがしれてからだ。
俺は最後の試験科目である化学Ⅰの答案を先生に渡して、教室を出た。終了時間までまだ15分ほどある。
トイレに向かう途中で、前方に飯倉あいりの姿を見つけた。俺は小走りで飯倉に近寄ると、「よっ」と軽く声をかける。飯倉は肩越しに振り向くと、俺を認めてにっこりと笑った。昔はこんなこと一つも出来なかった。そのくせ、変なプライドだけは高くて――。
「嘉手島さん、奇遇ですね。どちらへ行かれるのですか」
「ん。ああ、ちょっとキジを撃ちにだな」
「奇遇ですね。私も一緒です。猟銃が家にあるのでそこまでよろしくお願いします」
「いやいやいや」
「冗談ですよ、試験はどうでしたか?」
「赤点はない程度にはやったな」
「夏休みに補習せずに済みますね」
俺が赤点常習犯みたいな言い方やめなさい。
「もしかして、俺に夏休みに用?」
「はい。嘉手島さんのために夏休みプランを用意してまして」
「ほう。どんな」
「Iこうフェスタに行きましょう!」
フェスティバルか。懐かしいなその響き。俺は音楽や劇に興味がないからとんとそういうものや、言葉に接する機会が少なかった。
「連れて行ってくれるのか、何か新鮮で楽しみだな。で、何処まで行くんだ?」
「I県拘置所です!」
俺は咄嗟に飯倉の口をふさいだ。周りに人がいないのを確認して、もがもがと呻いている飯倉を洗面所まで連れて行くと、その手を離した。
「突然何をするんですか嘉手島さん!」
突然何を言うんですか飯倉さん!
「何で拘置所なんだ」
「興味があるからです。嘉手島さんもそうでしょう?」
何をおっしゃるうさぎさん。
「むしろ関わりたくない。普通そうだと思うぞ」
「年に数度一般公開されてて、そこに参加するだけです。別にやましいことをするわけではありません」
「思春期の真っ只中で行くような場所じゃないと思うがな。学校のやつに見つかったら、普通じゃないと思われるぞ」
「学校のいう普通なんて、従順で無個性的であればいい、ってことじゃないですか。問題の解き方一つとっても、です。
私、色んなことが知りたくて、学校の勉強とは違う、色んなことを勉強しました。たったそれだけで、周りからは変な奴だ、普通とはちょっと違う、って思われるんです。自分に害があるわけでもないのに、自分と違うからってそういう事を口にしたり態度に出す人たちの顔を窺うなんて、納得いかないじゃないですか。だから私、他人の言う普通や常識には、囚われないようにしようと決めたんです」
「一理あるが、お前、その理屈をもって俺の自転車の後ろに勝手に乗るのはどういう」
「嘉手島さんにもメリットがあるからです。現に、私たち、遠崎さんたちの問題を解決し、衣知佳さんのお友達も増やしました。万々歳ですよ」
アーイエバコーユー。結果論だろ、それは。




