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2-18 コローの夕焼け

「しかし、不思議なんだ。草野は遠崎を愛していた。それなのに、その愛する人から嫌われてもないのにいなくなるという事がさ。どうも腑に落ちない」

 帰り道。俺はリアキャリアに飯倉を乗せ、衣知佳と隣に並んで自転車で帰途についていた。

「おかしいですか?」

「分からないな。そこまでするか?」

「凜にい、にぶいなぁ。人を愛するって、憎むことと紙一重なんだよ。表面上は仲良くしていかなければならない人付き合いで、ふと、この人は何を考えているのだろうって分かんなくなる時がある。その相手が、もし自分の好きな人ならどう? 極端に悪い方向へと考えてしまってもおかしくなくない?」

 そう言われると確かに。告白して嫌われたらどうしようみたいなことを言い出す青少年たちは後を絶たない。

「凜にい、わたし先に家に帰ってるね。あいりちゃんも、ばいばーい」

 飯倉を家まで送りに衣知佳と途中で別れた。夏の夕暮れが街を山吹色に染め、輪郭をにじませる。

「聞きたいことはもう一つある。飯倉。何故俺に代弁させた? 何か自分で言えない理由でもあったのか」

「それは……」

 言い淀んで、死んだように黙り込む。夏の通学路は、部活動で校舎に残っている生徒たちの他は、既に帰宅してしまっている。ペダルとスポークのまわる音が、やけに耳につく。もうすぐ、セミの鳴き出すころだ。

 飯倉の家の前に着き、俺は飯倉を促して彼女を下ろした。

「じゃあ、またな。お互い、今度の期末試験、頑張ろうぜ」

「ごめんなさい、嘉手島さん。さっきの件ですが、まだ言えません。少し、時間をください」

 飯倉は両手で鞄を前に持ち、しゅんと肩を落とす。俺はその肩をぽん、と軽く叩いた。

「きっと、お前にも色々とあったんだな、悪かった。俺に気を遣わなくていいから。もし、何か相談事があれば、俺で良ければ話をきくよ。それだけだ」

「嘉手島さん。ありがとうございます。……優しいんですね」

 つとめて笑顔で答えた俺に、飯倉も満面の笑顔で応える。陽に沈む夕暮れの逆光に包まれた彼女の姿はまるで、コローの夕焼けの風景画を思わせた。

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