2-12 急転
「遠崎さん。給食費の納付日はいつだ?」
「明日になります。犯人には、名乗り出てきて、私と話をしてほしいんです……その子の為にも」
そう言ってうつむき下唇を噛む遠崎。草野がとても短い爪を噛みながら、それを横目で見つめている。
「この計算とWAM=K。遠崎は何か思い当たることはないか?」
「この曲がバッハの小フーガト短調という曲しか分からないです、ごめんなさい」
「衣知佳。お前わかるか?」
「ヒントが意地悪な気がする。WAM=Kをググっても、全然クラシックらしいものもヒットしない。そこがどうにかなれば突破口になれそうだけど」
俺は匙を投げた。
「遠崎さん。見つからなかった場合の事も覚悟しておいた方がいいぞ。さっき言ったように、実際にお金が盗られてる。親に報告するのもそうだし、被害届は出しとくべきだと思う」
「そうだね。奏絵ちゃん、勇気持とう。私も力になるから」
「ちょっと待ってよ。警察に相談して大事になったら、遠崎がますますいじめられるかもしれないよ。それでもいいの?」
「草野さん、っていったっけ。これは立派な犯罪だ。私立の学校なら窃盗罪は自主退学を勧められる騒動だ。単なるいたずらでした、じゃ絶対にすまない。それとも、そうしちゃまずい理由があんたにあるのか?」
「そんなことあるわけないでしょ。私が遠崎を困らせたいわけないじゃない」
「喧嘩はやめてください! ……もういいんです。お金なら、きっとどうにかなりますから。ごめんなさい、この話を持ち込んだ私が悪かったんです。もういいんです、ありがとうございました」
おいおい。
「盗られたお金は君のものじゃない、親が日々働いて稼いできた金だろう。その事から目をそらして帳尻合わせればいいってものじゃないと思うぞ」
「遠崎さん。遠崎さんのクラスで、音楽の素養のある方はおられますか?」
「素養、ですか。はい、吹奏楽部の人が五人ほどいます。みんな、夏の大会に向けて頑張っています」
遠崎の回答に、飯倉が手と手を打ち合わせる。
「私、この事件、分かったかもしれません。ちょっと確認してきます」
飯倉がそう言って手を打ち合わせ、教室を出る。草野があわせるようにその場を後にする。
三時間目のチャイムが鳴り響き、気づけば遠崎もいなくなっていた。
外に出ていた飯倉が教室に戻り、CDラックをまさぐるその背中に、俺は手を挙げた。
「お手上げだ。気分転換じゃないけど、昼飯買いに行かないか? 俺たち、用意してないだろ」
俺と飯倉は学校から徒歩5分のコンビニに立ち寄って軽めの昼食を買い込んだ。大学生くらいの店員の咎めるような視線を背に、俺たちは校舎に戻った。
そこで、俺はわが目を疑った。
俺たちが飯倉と談笑しながら廊下を歩いていると、授業中であるはずの草野が音楽室から出てくるのが見えた。彼女は俺たちの存在に気づいたのか、すぐに背を向けて廊下の向こう側へ走り出した。




