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2-11 解読

「あ、バッハの小フーガト短調だっ」

 衣知佳は手を叩いて嬉しそうに言う。ハゲの歌じゃないのか。

「そういう名前だったのか。よく知ってるな」

 俺がそう言うと、衣知佳は腕組みをして誇らしげに胸をそらせた。

「もちろん。こう見えても私、お母さんの中にいた頃の記憶もあるからね。記憶勝負だったら負けない」

 喧嘩したら過去の失敗を蒸し返され延々と責められそうだ。怒らせない方がいいな。

「これ、原曲の方? かなえちゃんなら学年のピアノ担当だし、弾けるでしょ」

「原曲のピアノアレンジは私だと無理だよ。これ、本来はオルガンの曲だし」

 衣知佳と遠崎のやり取りをよそに、あごに手を当ててラジカセを見つめる飯倉。曲の途中で草野が席を立つ。

「ねぇ、そろそろ授業じゃないの。私、先に行ってるよ」


 授業時間の間、他校生の俺と飯倉は問題用紙に取り組む。学生の本分は勉強。

 A:734 B:769 C:21 D:1004 E:114 F:1068。合計して476。

 WAM=K。ワムK。アメリカの昔のミュージシャンだろうか。それはないか。テープから流れた曲はトーガかフッカータか何だか知らないが、とにかくクラシックだし。

 音楽記号と見たらどうだろう。Mがマックでもマクドでもないことは確かだ。Aは……スマホでそれらしき言葉を調べる。メゾ、やや~。アッチェント、強勢。Wは? もしや、見た目的に似た記号を指しているのかも。そしたら、それらしいのは、これか。シュネラー。主要音から上隣接音をへて主要音にもどる装飾音。

 ……。

「何が言いたいのかさっぱり分からん」

 俺が頭を抱えるのにかまわず、飯倉は準備室の窓のそばにある横長ラックに詰められたCDを一枚ずつ取り出し、ためつすがめつしては戻す作業を繰り返していた。

「飯倉はクラシックが好きなのか?」

「嫌いじゃないですけど全然詳しくはないです。ドヴォルザークの『新世界より4楽章』、アルヴォ・ペルトの『鏡の中の鏡』、エルガーの『愛の挨拶』。有名作ばかりですね」

 ドヴォルザークがファンタジー作品の悪の四天王にいそうな名前だと思った俺は大層頭が悪いんだろうな。そうこうしているうちに二時間目が終わり、衣知佳と草野、少し遅れて遠崎がやってきた。

「みんなはクラシックは好きなのか?」

 俺は四天王仲間を探そうと、飯倉へ聞いたのと同じことを口にした。

「はい。『今ぞ喜べ、愛するキリストのともがらよ』、『シャコンヌ』、『G線上のアリア』など大好きです」と遠崎。

「『四季』、『月の光』、『フィガロの結婚』」と衣知佳。

「さー、クラシックなんて興味ないからさ。あんまりわかんない。『きらきら星』?」とこれは草野。童謡だろ、それは。

 仲間探し失敗。ボッチ確定。草野はカウントしてない。

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