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2-10 音楽室

 ラインで衣知佳と連絡を交わし、二時間目の休憩時間で音楽室の鍵を借りることにした。俺が先に職員室に行って待っていると、授業終わりに合流したと思しき四人が廊下を走ってやってきた。

 まて――四人?

 よく見ると、三人のサイドオプションのように数歩遅れてやってきた女子がいた。

 忘れもしない。衣知佳をいじめたグループと一緒だった栗色セミロングだ。

「そいつは誰だ」

 自然と、俺の問う言葉も乱暴なものになる。セミロングは腕組みをしたまま視線を床に落として答えない。遠崎が代わりに紹介する。

「クラスメイトの草野さんです。私の様子が変だったから、気になった……そうです」

「気になっちゃ悪い? 遠崎が珍しく友達と仲よさそうにして、一緒に解きましょう、って手紙とテープを手に騒いでる。誰だって気になるでしょ。ところでそろそろ、私にも教えてくれない? みんなが何しようとしてるのか」

 蓮っ葉な口の利き方がいかにも不慣れで、それが耳に障る。

「給食費の袋が盗まれたので、私たちで袋のありかと、盗んだ犯人を捜してるんです」

 飯倉がはっきり言うと、遠崎は弾かれたように顔を上げた。

「でもね、別に犯人を罰しようとかじゃないの。私は、その子とお話したいだけなの。きっと話せば、分かってくれると思うから」

 随分と甘い事を言う。

「……私も混ぜてもらってもいいかな」

「……うん」

 草野の第一印象をよく思っていなかった俺は、遠崎が唯々諾々とそれに従うのがやきもきしてならなかった。こいつは衣知佳と遠崎をいじめていたグループの一人じゃないのか? 積極的にいじめに加わってなければいいって理屈か? 分からない。が、本人がそれをいいというのなら俺にどうこういう権利はない。これが衣知佳へ聞いてるんだったら、また話は別だが。

 休憩時間の職員室に、人影はまばらだった。

「山西先生、音楽室の鍵を借りたいんですけどいいですか」

「今日は一日、授業がないからいいが、放課後は部活で使うからな。それまでには返しとけよ」

 山西は吹奏楽部の顧問と三年四組の担任を兼ねている。山西は札付きで提げられた鍵の列から音楽室のカギを取ると、真上のホワイトボードに「音楽室 嘉手島衣知佳」と名前を書き込んだ。ボードには借りた日付とその時刻、人間の名前がびっしりと書かれてある。過去のものは消せばいいのにと思うのは、俺だけだろうか。

「あれっ。もしかして、飯倉先生の姪っ子さんじゃないですか?」

 山西は飯倉に丸い目をくぎ付けにしたまま、机に無造作に置かれていた、生徒の名前が裏書された給食費の茶封筒の束をトントンと揃えた。

「はい。山西さん、この間は後援会の演奏に来ていただきまして、ありがとうございますっ」

「いえいえ。先生の御前で演奏出来たことがとても光栄でして。こちらこそ恐縮です」

 山西は普段の物憂げで何事も斜に構えているような態度を180度改め、ぺこぺこと飯倉に頭を下げている。

「学校見学ですか? 自由に見て行ってください。何か質問があれば、もしよろしかったら僕のところへ。今から会議に行かないといけないので、失礼しますね」

 山西がその場を後にすると、衣知佳が「何なのアイツ。普段と全然違うじゃん。やな感じ」とこぼした。

「山西さんは私の伯父の後援会の人なんです。それと、山西さんのおじい様がこの学校の創立時の最初の教師だった頃、私のお父様のおじい様が、創立の際に多大な寄付をしたと言われてるのもあると思います。決して悪意はないと思うんです」

『え。なにそれ、やば』

 俺と衣知佳の驚嘆がはもる。


 音楽室は教室二つ分のスペースがあり、時には合同授業も行われ、放課後には地元で強豪と言われる吹奏楽部が活動している。教室の角にピアノはあるが、ピアノ部はない。隣の音楽準備室には種々雑多の楽器が所狭しと並べられているが、授業でほんの触りしか紹介されないものも多い。

 教壇のそばにラジカセが直置きされていたので、それを机の上に置いて、カセットを再生する。

 音楽室中に、どこかで聞いたことがあるピアノの旋律が流れだした。

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