2-7 連行
中性的な声音ですごんだが、効果は果たして。
俺は衣知佳の肩をポン、と叩くと、周りのやつらにチラチラと座った視線を流して教室を後にした。
スマホのホーム画面を見る。8時20分。もう少しで教室に先生が来る。見とがめられる前に隠れておこう。
俺は最寄りのトイレに来たが、頭と格好のちぐはぐなままでどちらに入ればよいのかと思うと悩ましかったので、結局洗面台の影のところでやり過ごすことにした。
スマホが震える。ラインだ。衣知佳からのチャット。
――凜にい、あんなに強かったんだ……でも、ちょっとやりすぎじゃない?
――ああいう奴らは、自分が痛い目に合わないと分からない。二度目はないってことをしっかり教育しないといけないんだ。
刑務官が囚人にそうするように、とは言わなかった。
――俺は衣知佳を守りたかった。その気持ちが、ちょっと強く出過ぎたかもしれないな。心配させてごめんな。
――そ、そう? それは、いいんだけど……まぁ! いいよ、他の子に聞かれたら適当にごまかしとくね!
――すまんな。頼んだぞ。
――ええんやで!
いつから関西人になったんだコイツは。しかもそれ、エセちゃうんけ。
鼻を鳴らして頬を緩めていると、どうしよう、と衣知佳の不安げな言葉が画面に飛び込んでくる。全く、人の表情筋を急き立てさせたがる子だ。
――何か言われたのか?
――ううん、違う。別の子が、絡まれてるの。
――腹いせか。さっきのやつらにか。
――ううん、あいりちゃんに。
――は?
休憩時間。トイレで衣知佳のクラスの奴らと鉢合わせると面倒なので、一つ下の二階のトイレ洗面台で衣知佳に頼んで飯倉を呼び出すことにした。
チャイムが鳴って少しすると、三人分の慌ただしい足取りが近づいてきた。衣知佳が慌てて、飯倉がマイペースに順に入ってくる。
廊下側に伸びた飯倉の手に引かれるようにして、女の子が現れた。平均より少し低い背丈のセミロングヘアーに縁なし眼鏡の垢ぬけない女子。その印象を、明るく映える栗色の髪だけが裏切っていた。その子は困ったように両の人差し指を胸の前でくるくると回して俺を見つめている。
「飯倉」
「はい、ちゃんと連れてきました」
俺が連れてこいと言ったのはお前だよ。




