表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/81

2-2 セットアップ

 顔に当たる弾力的な固さに目が覚めた。

 どうやら考え事をしているうちに寝てしまっていたようだ。思い出したくない夢。だが、忘れてはならない夢。

「あ、動かないで、目閉じて。今から影つけて線引くから」

 衣知佳がウキウキした声で俺の顔に何かを塗り終えると、アーモンドぐらいの大きさをした先端のブラシと、極細の筆のようなものを取り出した。

「なぁ、衣知佳。これ、お前の学校復帰に必要な事か」

「うんうんうん。必要必要」

 なんだその軽い調子は。土曜の早朝から人様の顔に落書きするんじゃない。

「社会ってさ、不思議だよね。高校生になるまで学校じゃメイク絶対禁止! とかいってるのに、大学とか社会に出たら、メイクは最低限の大人の身だしなみだって言われるんでしょ? おかしいよね」

 言いたいことは分からんでもない。が、俺の顔をその理屈でいじるのは分からない。

「俺の顔で練習したいって事か」

「んー……ちょっと違うかな。あっ、可愛いー!」

 俺は玩具か。

「凜にいは元の顔がいいからうらやましいなー。私、お父さんと顔似ちゃったじゃん。それがちょーショックで」

 俺自身はあまり好いてないがね。それに、父さんも中性的な男前の顔に入るし別に問題ないと思うが。

 俺の思いをよそに、衣知佳は俺の顔パーツにバラエティ豊かな細工をしては黄色い悲鳴をあげている。

「頭これじゃ駄目だよね、ウィッグつけてカツラ持ってこないと」

 この段に及び、俺はいつぞや抱いていた不安を思い起こすことに相成った。

「待て」

「あーダメダメ目開けたら。鏡見ちゃだめだからね」

「いや。これさ、ネットにあげるとかそういう事はしないよね?」

「そんな悪ふざけするわけないでしょ。凜にいは馬鹿だなぁ。うわー! すごい綺麗」

 兄の顔で遊ぶのは悪ふざけじゃないと。そうですか。

 しばらくして、衣知佳が大きく息をついた。隣室へとんぼ返りする気配。

「もういいよ。目開けてこっち見て」

 俺が目を開くと、輪郭の直線的なのにやや違和感は残るものの、幼さの中に端麗さを備えた線の細そうな女顔が、衣知佳の手に持つ鏡に映っていた。一目ではそれが俺の顔だとは見分けがつかなかった。

「よく出来てるでしょー」

 俺が感嘆の吐息をついている横で、衣知佳が誇らしげに腰を両拳ではさむ。

「輪郭のところ前髪でくるっと隠しちゃったら?」

 へいへい。俺はカツラの左右の房をちょいちょいと位置修正する。

「本当に上手だな。メイクの専門にでもなるのか?」

「まだ分かんない、でも興味はあるよね」

 衣知佳はそういうと、部屋の隅にあるハンガーラックからスクールブレザーを手に取った。

「これね、昔引っかけて破いちゃって、補修する間どうしようもないから新しいの買ったんだ。だから余ってる」

「ほう」

「というわけで、今日これ着てくんない?」

 というわけの定義とは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ