1-11 下校
放課後。正門から道路を挟んですぐ向かい側にある青空駐輪場に人影を見つけた。
飯倉と、背の高く髪の短い男がいる。男はこめかみをかきつつ何かを身ぶり手振りで説明し、飯倉はそれにひとつ礼を返して男と別れた。俺は校舎側道路の手前で、車の往来の列が切れるのを待ちながらそれを眺めていた。
見てはいけないものを、見てしまったような気がした。
俺が道路を渡って駐輪場に足を踏み入れる頃には、それはある種の確信となって、窓ガラスの雨シミのように、俺の臓腑にこびりついていた。
俺は何故かもう一度高校生として、この時代を生きている。心のどこかで、飯倉あいりと仲良くできると淡い期待を抱いてはいなかっただろうか。
なるほど、仲良くは出来るだろう。だけど――
飯倉も近づいてくる俺の姿を認めたようだった。俺たちはお互いの姿を認めると、飯倉は目を丸くし、俺は目を伏せた。
「嘉手島さん、今お帰りですか」
「ん……ああ。じゃ、また明日」
俺は飯倉の横を通りすぎ、その少し先の右手に止めてあった自分の自転車を手に取った。やや重めの車体を力を込めて入り口へと旋回させ、またがる。
飯倉だって変わったところはあっても、普通の女の子だ。恋もすれば、想いを通じあえたやつがいてもおかしくない。
俺は、何かの奇跡でこうして目が覚めたあとも、夢を見ていたのだ。たった今まで。
「あ、私の家左側なのでお願いします」
「へいへい」
……ん?
俺は肩越しに振り向いた。
飯倉が、自転車のリアキャリアに腰を下ろして、膝の上に置いた鞄の中をまさぐっていた。
「何してんだ、……飯倉」
もうさん付けはしない。
「はい。送っていただこうと思いまして」
「……」
「……」
俺はおれた。下手に逆らうと何をされるか分かったもんじゃない。目の前で馬もーもー、と叫ばれるかもしれない。
「引き続き、ナビおなしゃす」
「任せてくださいっ」
何だその自信満々な顔。羽根つきの墨でも塗ってやろうか。
背中に飯倉を従えて通学路を流す俺たちに、どこかから口笛の音が送られる。それと同時に、こちらに目をやる生徒たちの視線がどことなく浮わついているものを帯びているような気がして、俺は何だか気恥ずかしくなってきた。
このまま無言でいるのも気まずいので、俺は肩越しに飯倉を振り返って言った。
「なあ、飯倉。気になってたんだけど、さっきの件、何が80%解決したんだ。良かったら教えてくれないか」
飯倉は俺の言葉にパッと顔を輝かせ、ウキウキと先程の弁当箱を取り出して、こういった。
「私、いじめに遭ってたんです!」




