第二話 強敵
第二話です。待たせてしまってすいません。
さっきヤンキーに缶をぶつけてしまい怒ったヤンキーはついてこいと俺をどこかへ連れて行こうとする。
俺の予想では連れていかれる場所は多分路地裏だ。大体この展開だとこうなるだろう。
どうする……このままだと家に戻れない! このヤンキーが俺の強敵としたら最悪だ。
確かあの悪魔は言っていたはずだ。今の姿の俺にとって最悪の敵となると。
最悪の敵=昔の俺と同レベルもしくはそれ以上。
クッ! 最悪だ。もし俺の予想が当たっているとすれば今の俺では間違いなくコイツに敵わないだろう。せめて俺の必殺技邪神眼さえ開眼できれば奴の体を闇の中に葬り一件落着できるのにッ!
「オイ早く来い! 来ないと殺すぞオラ」
目を吊り上げギロリと俺の目を見て顎クイしながら俺を呼ぶ。
『そんな汚い面構えにしかもタメ口で人を呼ぶ? そして来ないと殺すと脅迫か。ふざけるな。貴様は礼儀というものを知らないのか。まず人を呼ぶときはタメ口は勿論のこと、顎クイのような舐めた態度で人を呼ぶな。そして目上の人に殺すなどと言ったら逆に貴様が殺されるぞ。いいか貴様の眼前にいるのはディアボロス・サンチュリアゲインだぞ? 本来ならばそのような舐めた態度で呼ばれた瞬間に貴様を闇に葬り去るところだが……今回は地べたを這いずり、俺の靴をペロペロと舐めながら許しを請えそうすれば今回のことは見逃してやる』と言いたいぃぃぃぃぃ!!
だが不思議と言葉が喉につっかかり言えないぃぃぃぃ!! なんだコイツ。まさか俺を喋らせなくする魔法でも掛けているいるのか? それとさっきから膝がガクガク震えているがおおお俺は断じてビビッてなどいない……ビビッてなどないぞ!
「テメエさっきからギシギシうるせえなあ。もしかして歯ぎしりとかしてんじゃねえのか」
余計なこと言うな! あ、いや歯ぎしりしているのは事実で今そのことを貴様らに知られたくなかっただけだ。歯ぎしりしてる理由はな……そのとてつもなく寒いんだ! あ、いやマジだから……
例えると今南極にいる感じ……あー寒い。あー寒い。
「さっむ。本当寒いな」
「からかってんのかテメエ? まだ七月だぞ。どちらかというと暑い!」
だから余計なこと言うな! なんでそんな説明口調なんだよ腹立つ!
「さっきからテメエの態度見てるけどテメエ俺のことからかってんだろ? そうなんだろアン! テメエから来ねえなら俺が連れてくまでだ。オラ来い! 早く来いよ!」
そう怒鳴り俺の腕をガシッと強引に掴む。
オイどうする。このままだと家に戻れないどころか今の俺ではこのヤンキーには勝てない!
「ホラ来い! さっさと歩け!」
怒鳴りながら俺の腕を強引に引っ張り路地裏に連れて行こうとする。
どうする……このままだと連れていかれてしまうぞ! こうなったら仕方ない……戦うか。
掴まれている腕を振りほどき、俺は即座に戦闘態勢に入る。そう佐藤と登校していた時に使ったあの姿だ。
「なんだお前いきなりシェーのポーズなんてして、やっぱお前俺をからかってんだろ?」
「……べべ、別にからかってなどいない。おおお俺はただ戦闘態勢に入っただけだ」
喉から声をなんとか絞り出し弱弱しい声で返事をする。
「舐めるのも大概にしろよカスが! そんなポーズが戦闘態勢ってか? 頭おかしんじゃねえかテメエ。お前のその様子じゃ両親も頭おかしいんじゃねえか?」
今のセリフで俺の何かがブチッとキレた。
コイツ! バカにしやがって!!
もうこうなったら後のことなんて気にするものか! こっちだって本音を洗い浚いぶちまけてやる!
「冗談はそのタンクトップだけにしてもらいたいな。あ、すまない悪かった。そんな頭の悪そうな貴様なんかにこの戦闘態勢の良さがわかるはずなどなかったな。まあ普通の人間でも理解できないとは思うが、普通の人間より知能が劣ってる貴様なんかには到底わかるはずなどなかったよな」
「テメエいい加減にしろよ!」
俺の暴言で到頭キレたのか拳を握り殴りかかろうとする。いいだろう。そちらがその気ならこっちだって必殺技を使わせてもらう! 俺が異世界で三十年かけて生み出した究極の必殺技をッ!
『喰らえ我が究極必殺』といった瞬間拳が眼前に飛んできた。
「助けてええええええええ! おまわりさああああん!」
無意識に俺はそんなことを叫んでいた。
え? 俺何言ってんの? 俺。
「テメエこの野郎! 最初から戦う気なんてえさらさら無く、サツを誘き出そうとしてたんだなああああああ」
「あ、いやえっと、そそそそうだ。その通り今の貴様など俺の相手にもならないと思ってだな。それなら挑発だけしといてあとは警察に相手をしてもらったほうが貴様にとっても楽だと思ってなあ。す、少なくとも暇つぶしにはなったよ」
「負け惜しみ言うんじゃねえ。だが残念だったなクソガキ! テメエが叫んだってサツは来やしねえよ! たとえ来るとしてもサツが来る前にテメエをぶっ飛ばすまでだああああああ」
「コラ君たちこんなところで何をしている」
「ええええええええええええ!?」
ハア? 俺の叫びを待ちわびていたかのようにヤンキーの後ろに二十代前半と思われる警察が立っていた。
ヤンキーは狂ったかのように大声で驚愕している。そして勿論この俺も。ポカーンと口を開きながら。俺にはそこに警察が立っていることさえ信じられない。
当然だ。そんなこと。誰でも驚くことだろう。
ドラえもん以上に使い勝手が良いのだから。例えるならのび太がドラえもんと言った瞬間にドラえもんがジャイアンをタコ殴りにしてくるレベル。
ヤバいぞ! ドラえもん使い勝手が良さすぎるぞ。このままだとジャイアンのび太に逆らえなくなるぞ。立場逆転してしまうぞ! のび太クズ野郎に成り下がるぞ…………ってドラえもんのことはどうでもいいんだった。
なぜだろう。このディアボロス・サンチュリアゲインが安堵している!?
あの男が来たことに。
まさかあの男は俺の救世主!?
「もう登校時間だろ? そんな時間に喧嘩なんてしているんじゃない。それに周りの迷惑も考えなさい。君たち中学生だろ?」
実に純粋で一切の迷いのない瞳でこちらを見る警官。その瞳をずっと見つめていると若干胸がチクチクしてくるのは気のせいだろうか。
「ちげーよ。俺を中坊と一緒にするな! 俺は高二だ」
「ならなおさらだ!」
ヤンキーの意見に同感だ。そう、そこら辺にいる中学生と俺を比べるのではない……
俺は包帯が巻かれている右手で顔を覆う。
「そう中坊、それにこの男と俺を比べるのではない……俺とこの男では天と地ほどの歳の差がある…………俺は少なくとも百年は生きてるだろう…………なんだ貴様ら! 悲しいやつを見るような目で俺を見るな! 本当だぞ! 本当だかんな!」
多分本当だ! 以下略で詳しくは説明していないが俺は百年以上生きていたって悪魔が言ってたんだ多分!
「とにかく喧嘩をするのではない! 他の人の迷惑を考えろ!」
「別にまだ喧嘩はしてねえし。ただ俺は人の顔面に缶を当てて謝りもしないコイツにケジメをつけようとしただ」
「だが謝ったところで展開は変わりもしない。むしろ悪化するだろう。俺が謝ったことでコイツが調子にのり結果、今の状況になるだけだ」
ヤンキーの言葉を遮り自分の意見を述べる。
展開はなにも変わらない。
「謝ったら殴られる、許してはくれない。それがこの男であったらなおさらだ。ということで今後俺は貴様のようなやつらには一生謝らない! ただそれだけだ!」
「オイテメエ表出ろやコラ! 今からぶっ殺してやる」
「言葉の使い方が間違っているぞアンパン君。ここは家の中でも店内でも車の中でもないだろ?」
やれやれと言った様子で首を振る俺。
「もうちょっと国語を勉強しようぜ」
「テメエ」
「ヒイイ」
今ちょっとビビッたのはアレだ。デスドラム戦争での宿敵がヤンキーの後ろに立っていたからだ。だけどよく見たら残像だった。
けっして青筋を立てて今にも俺に殴りかかってきそうなこのヤンキーにビビッたわけではない。
本当だぞ?
「コラ君たちぃぃぃ喧嘩はやめろと言っているだろぉぉぉ!! 近所迷惑だと何回言えば分かるんだぁぁぁぁッ!」
警察が俺とヤンキーの鼓膜が破れそうなほどの馬鹿デカい大声を出して俺達を怒鳴り散らす。
「いやアンタの声の方が馬鹿デカいから近所迷惑だからマジで」
「同感だ」
今の大声で何十人が目を覚ましただろうか。少なくとも十五人は起きたな。
「こんな話をしていても何も意味がないな……君たち私がちゃんと話を聞くから今ここで話しなさい」
「それは困る! 今から話すなんて無理だ! 俺は一時間目までに学校へ戻らないといけないのにッ……!」
「学校には私から連絡してあげ」
「今日だけは駄目だ!」
俺はヤンキーの言葉を遮り即答。そう今日だけは駄目なんだ……時間以内に学校へ戻らないといけない。ただでさえタイムロスしているのにッ!
「…………時間はどれくらいとるのだ?」
「十分くらいかな?」
「十分ッ!? そんなの無理に決まっている。ということで俺は家に戻る」
「俺もダチと全勝高校の奴等と」
「駄目だ。君たちがまたこのような行為をするとたくさんの人に迷惑がかかる。警察として私は君たちにしっかりと注意しなければならない」
正義感溢れる眼差しで俺や、ヤンキーの瞳を見てくる。
やめろッ! そんな目で見るな! そんな真っすぐな目で見られるとなんか心が不思議と痛むだろ!
この警官アレだ。仕事馬鹿だ。普通の警官なら、『次から注意してねー』で終わるのに…………めんどくせえ。
「ここで君たちに注意をしないと、また同じ行為をするに」
「俺は断じてしねえよ。喧嘩なんて一生! 神に誓う」
「同感だ我が右手に眠る邪神に誓ってしない……」
「キミ僕をからかっているのか?」
「からかってなどいない! 言っているだろ! 我が右手に」
「僕は真剣に言っているんだぁ!」
「俺も真剣に言っているんだぁ!」
「いやどう考えてもからかってんだろテメエ」
すると警察がハアとため息をつき。
「いいから早く話しなさい。こういう時間が無駄だ」
「じゃあ俺にとって、この時間は無駄なんで撤収させてもらいまーす。あばよ腐れポリ公!」
と言ってヤンキーが俺を置いて逃げていった。さすがの警察も今の行動はすると思っていなかったのか。
あっさり逃げられてしまう。
「ちょっと待ちたまえ! まだ話は終わってないぞ」
「ちょまてええええ! 貴様ぁぁぁぁ俺をッ! 俺を置いていくなあぁぁぁぁ!!」
「後はよろしくなクソガキ! そして腐れポリ公。ばーかばーか」
と小学生の言うような悪口を吐きつけてヤンキーはこの場を去った。
「……ということで彼も逃げたことだし俺も」
するとガチャリと俺の右手と警察の左手に手錠を掛ける。
「えーと。えーとこれはどういうことだ? おまわりさん」
冷や汗をダラダラ掻きながら俺が警察に尋ねると。
「君があの男のように逃げださないために手錠を掛けただけだ」
この警察! 救世主なんかではなかった。いや俺がただ勘違いしていたのかもしれない。あくまであのヤンキーはモブ! 俺にとって一番の強敵はこの警察だったんだ!
だ、誰か助けてぇぇぇぇぇ!
第三話は来週中には投稿するんで楽しみに待っていて貰えると嬉しいです。