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第一話 尿検査

俺の名は一之瀬瞬。普通の高校に通うごく普通の高校生だ。

と、表向きはそうなっている。


この一之瀬瞬という名、そしてこの姿はこの世界での俺の仮名、仮の姿にすぎない。

 

本当の俺の名はディアボロス・サンチュリアゲイン。

 あの有名な聖戦デスドラム戦争を終結させた張本人と俺は思っている。


 何故こんなことを思っているのかというと三か月前夢を見た。俺の前に悪魔が現れこう語ったのだ。


 『貴様はデスドラム戦争を引き起こしたリュゲルを殺し、戦争を終結させた本人だ。貴様はあの戦争の後この世界に転送されてしまったのだ。体は無くなってしまったが魂は生まれる前の赤子に乗り移ったそれが貴様だ。貴様はリュゲルに呪いをかけられていて……』以下略とな。


 すると最後に俺をギロリと睨みつけ後に伏線になるようなことを言い残し、悪魔はスッと俺の前から消えた。


 『貴様はいずれ戦うだろう。その相手は今の姿の貴様にとっては最悪の敵となる』と。


 その言葉を聞いた瞬間直感した。

 そうか。俺はこれから数多の強敵達と壮絶な死闘を繰り広げることになるのだな………と。


 ちなみにあの組織の連中というのがどういうやつらなのかはわからないがとりあえずこの場合だと俺の力を狙うやつで間違いないだろう。


 思えば前から少し自分には凄い力が眠っていたと分かっていた。

 そうあれは。


 「おはよ。瞬」


チュンチュンと小鳥達が鳴く、そんな穏やかな朝に、穏やかな青年が俺に朝の挨拶を交わした。


 「ん? ああ佐藤か。おはよう……この世界での挨拶はそう言うのだったな」


 このいきなり俺に話しかけてきたのは佐藤雄二。ちなみに俺は佐藤の家の前で待ち合わせをしていた。


 いつも朝は佐藤と一緒に学校という俺の人生には全く役に立たないであろう場所に行っている。


佐藤はそこらにいる人間とは違い、顔はムカつくほど整っていて一日に十通も女子からラブレターを貰うらしい。しかも鈍感でいつも数多の女子達とラッキースケベに遭遇している。


 まさにクソ野郎だ。


 これだけ女子に告られているなら性格は多分クズだろ。ラッキースケベも意図的に起こしたに決まってる。絶対彼女何人も作ってハーレム形成してそうと思ったそこのあなた。


残念ながら大はずれだ。ムカつくことに性格が完璧で誰に対しても優しい。こんなやつが意図的にラッキースケベを起こせるわけない。


 それにラッキースケベはたまに我々男子とも遭遇することがある。例を挙げようとしたがあまりにも酷いので言わないでおこう。


 だがハーレムを作ってるのは事実だろ。彼女ぐらい作ってんじゃねえかと思うだろうが、残念ながら作ってない。


 しかも童貞だ。ナメてんのか。

 

 まあコイツは俺とよく遊んでくれるので一応友人だ。

 (いつも遊んでるときに女子が奴に集まってくるのは伏せておく)

 

 「瞬どうしたんだ。悩み事なら聞いてやるぞ」


 さすがのイケメンな対応に若干戸惑う。

 別に悩みはないのだが今俺が思ったことを言うだけでいいか。


 「え? ああ。悩みではないのだがな。まあいい貴様になら教えてもよさそうだ」

 「あ、ああ」

 「実は俺、昔から不思議な力を持っていたんだなって………」

 「お、おう……そうか」


 すると雄二が困った表情で若干戸惑いながらそう言った。


 「小一の頃、俺が〇空のまねして開いていたドアに向かってかめ〇め波のポーズをしたらドアが急にキ―って閉まったことがあったんだ」

 「ごめん。それって風圧と瞬のポーズをしたタイミングがたまたま重なっただけじゃない?」

 「………」


 ………聞かなかったことにしよう。


 「ほ、他にも小二の頃、俺がサッカーのゴールキーパーをした時クラスで一番サッカーが上手く、絶対にと言えるほどゴールを決める奴が来た時、俺が右手を正面に出して『ゴッドハンド!』と叫んだら不思議と奴の打ったシュートがゴールに外れたんだ」

 「それって瞬の叫び声のせいで集中力を切らしてしまい、その状態でシュートを打った結果ハズしただけだよね」

 「………とにかく俺は不思議な力を持っているのだ。分かったか!」

 「お、おう。そうか……」


 やけくそ気味に胸を張って佐藤にそう言った。

 ま、まあそんなことはどうでもいいとして………

 

 「なあさと………」


 俺が佐藤に話しかけようとした瞬間、背筋が一瞬ゾクリと震えた。


 う、後ろに何者かがいる。まさか、あの悪魔が言っていた……!


 急いで後ろに振り向き戦闘態勢に入る。

 一見見れば普通の住宅地電柱にも人影はなく曲がり角にも誰もいないように見えるだろう。

 

 「オイ瞬、どうしたんだよ。いきなりシェーのポーズをして………」

 「人聞きの悪い事を言うな。これのどこがシェーのポーズに見えるんだ」

 「いや見たまんまだぞ………」

 

 ………そんな馬鹿な事を口走っている佐藤は置いといて。

 俺の命を狙う者がいないか戦闘態勢でピョンピョン跳ねながら探す。とくに近くにある電柱や、曲がり角などを念入りに。


 途中近所のおばさんに可哀そうな人を見る目で見られたがそんな事は気にしない。とにかく念入りに。念入りに探し出す。


 「な、なあ瞬こんなことを言うのもなんだがそのポーズやめてもらえないか。なんかお前と一緒に居る俺も可哀そうな人を見る目で見られているのだが………」


 「馬鹿言え! 近くに敵がいるかもしれないのだぞ。それなのになぜ貴様は警戒心を出さずに無防備でいる。組織の追手が電柱の陰からライトセイバーを構えて出てきたらどうするつもりなのだ」


 「出てこないよ。アニメの世界じゃないんだし....」

「いや出てくるはずだ。なんていったって俺だからな。デスドラム戦争を終結させた俺だからな。ということでわかったか!」

 

 俺がそう厳しく佐藤に注意するとなぜか呆れた表情でコクリと頷く佐藤。


なぜか呆れているが俺なにか変なこと言ったか?

 その後も念入りに歩きながら組織の連中が隠れていそうな場所を探してみたのだが特に異常は見当たらなかった


 とりあえず調査を終えたのだが結果気のせいという結論が出た。


 「ふう……よかった。とりあえずは解決ということで」


 近くに敵が潜んでいない事を確認し、額に流れる汗を拭っていると。


 「お、そういえばさあ今日尿検査の日だったよな。シュンちゃんと尿を持ってきたか?」

 「そういう貴様は持ってきたのか? まさか持ってきてないわけないだろうな? まあ貴様は完璧だし持ってきていると思うが。」


 「持ってきたよ。そんなこと言っているシュンはどうなんだよ」

 「ああ。当たり前だろ。持ってきたに決まってるではないか。俺は貴様より完璧なんだからな………ところで何を?」

 「何をって……尿検査の尿だよ」

 「ハイハイ尿検査の尿な。尿検査の………に、尿検査……!?」

 

 に、尿検査だとおおおおお。

 尿検査という言葉を聞いた瞬間俺の体に電撃が走る。

 尿検査すっかり忘れていた。まさか今日だなんて。


 「なんで、ティーチャーはそのことをきちんと説明しなかったのだ………」

 

 「いや先生が説明してた時お前カッコつけてずっと窓の外の景色を眺めてたじゃん」


 呆れたような表情でそんな事を言う佐藤。

 ………何も言えない


 尿検査とは小、中、高校に限らず一年に一回行われる伝統的な行事のような物の一つ。


 しかも尿を忘れてしまった場合宿題の様に次の日に持ってくれば受け取ってもらえるような物ではなく、もうその尿は受け取ってもらえなくなるため忘れてしまったら先生に公開処刑され、多くの同級生から注目を浴びてしまうという最悪の事態になってしまう可能性もあるのだ。


 小一の頃そんな経験をした友人がいるので間違いない。というかそのような現場を何度か見たことがある。


 あれはまさに地獄絵図そのものだった。

 そのような事態が起きないため一年前まではちゃんとティーチャーの話を聞いていたのだが。


 俺は今にも死にそうな絶望的な表情を浮かべていただろう。その表情に気づいたのか佐藤が少し顔を引きつりながら俺に問う。

  

 「ま、まさかとは言わないけどもしかして忘れものなんてしたことがないシュンが忘れ」

 「な、何を言ってるんだ。忘れるわけないだろ。この俺が。忘れるわけない。忘れてないぞ! 忘れてない! だから忘れてないってばあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 「わかったから、わかったから顔が近い!」


 散々馬鹿にしたあげく知らなかったと言ったら馬鹿にされてしまう。そして何より学校で俺は死ぬ……!

 皆にグサリグサリと鋭く尖った槍を刺されて(馬鹿にされて)ああ……想像するだけで恐ろしい……


 そしてもっと恐ろしいことは女子に嫌われてしまうことだ。ただでさえ地味で女子とは縁が無いのに尿を忘れてきたとティーチャーに公開処刑されたらドン引きされるだろう。

(既にされてる)


 尿を忘れてしまったことにより女子からのイメージが酷くなってしまう。(既に酷い)


 最悪だああああああ。せめて朝尿を出していれば救いの手はあったというのに……朝?


 朝のことでなにか頭のなかでひっかかり、思考をフル回転させて朝の出来事を思い出す。

 思い出した。確か俺は朝トイレに行く途中廊下で母に会ったんだ。


 『アンタトイレ行くの?』

 『ああそうだがそれがどうしたというのだマミーよ。頼むから今俺に構わないでくれ。』

 『おしっこするんだったらこの容器にしなさい。今日尿』

 『いいだろう。してやる。よこせマミーよ。それにしてもこの容器どこかで見覚えが……』

 『だから今日尿……』

 『分かったからどこか行け。シッシッ』



 そうか、あの時か。 

 俺は人生で初めて母親のありがたみを知った。

 ありがとうマミー。マミーのおかげで俺は殺されなくて済むよ。あとで三百円あげるね。


 はっ……うっかり。第二の人格優に戻ってしまった。いかんいかん。あの人格は封印していたのに。なんていったって優しいからな。俺に優しさなんて必要ないし。

 さてと……そう決まったらすることは一つ。家に戻ることだ。まずは今の時間を把握すること。


 「な……なあ佐藤今何時だ?」

 「あー今は八時五分だぞ」

 

 学校が始まるまであと三十分。今から家に戻れば一時間目までには戻れるはず。

 よしそうとなったら……佐藤を撒く!

 だがどうすれば完璧に佐藤を撒ける。なるべく不自然のない、自然な流れで佐藤を撒ける方法はないだろうか。


 何分か、俺は必死に考える。なるべく自然に……なるべく自然に……と。

 そしてある考えが頭に浮かぶ。

 完璧だ。これなら不自然なく佐藤を撒ける!


 そうと決まればミッション開始。


 「ぐわあああああああああ!! 目がああああああ! 目がああああああ!」

 「ど、どうした! シュン……! モノモライか?」

 「ち、違う。組織の連中にやられた!!」

 「組織の連中なんてどこにもいないよ! モノモライか! そうなんだな?」

 

 俺はいきなり左眼を押さえて地面に崩れ落ちる。一応言うが組織の連中などいない。そしてモノモライでもない。


 「俺は一旦家に戻る。佐藤貴様は先に学校へ逃げろ!」

 「嫌だ。見捨てられない。俺はお前を眼科へ連れて」

 「いいから早く!」

 「わ、わかった! 先生に伝えとくからな! シュンはモノモライになったって」

 「だから違うって!」


 なぜか勝手にモノモライと勘違いして佐藤は走っていった。

 ひとまず佐藤は学校へ向かって走っていった。佐藤の姿はあっという間に俺の視界から消えた。


 完璧な作戦だ。多分俺以外誰も考えられないだろう。

 だが友人を裏切るという行為に若干の罪悪感を覚えるなあ。


 だがこれも仕方のないこと。一刻も早く家に戻らなければ。

 俺はクラウチングスタートの体制に入る。周りの目が気になるが今はそんなことを考えてる暇がない。


 「スリーツーワンピース!」


 その合図でタッタっタッタッと走りだす。家に向かって。


 「待っていろおおお。尿のパックよおおお!」


 二分後


 バテた……そういえば最近運動していないのを忘れていた。五十メートル走では誰にも負けたことはない俺だがスタミナだけはない。


 ま、まあ俺が本気を出せば早すぎて地球を一周してしまうが。被害が大きいのだ。ほ、本当だかんな!


 さあ早く走らなければ。

 と一歩を踏み出したその時。つるんと何か丸いものに躓きしりもちをつく。


 ついイテッと声を出してしまう。

 何に躓いたのか見てみるとそれは空き缶だった。


 「クソ! こんな時に」

 

 腹が立ち、思い切りその空き缶を天空に向かって蹴る。


 その缶は正面にいた男の顔面にヒットした。


 あ。

 缶はカンカンと音を立てて落ちた。

  

 「ってーなあ。」


 顔面に缶がヒットした男は、金髪で『あんぱん上等』と書かれた謎のダサいタンクトップを着ている。そしてこの汚い口癖、間違いないこの男ヤンキーだ。タンクトップに関しては謎だがこの男ヤンキーだ。


 男がスタスタスタと足音を立ててこちらに近づいてくる。


 「てめえだろ?」

 「へ?」

 「だからテメエがやったんだろって聞いているんだよ!」

 

 男が厳つい顔を近づけてくる。顔が厳ついせいでものすごい迫力だ。

  

 最悪だ。こんな状況なのに世界一絡まれたくない奴第三位のヤンキーに絡まれてしまった……


 ここで謝ってもこの後家までついてくるのがオチだ……

 ヤンキーという暴力集団略してゴキブリというのはその名の通り謝っても謝ってもしつこく付きまとってくる。

 しかも最悪仲間まで呼んで。まさにゴキブリ。もういっそヤンキーからゴッキーに改名したらどうだろうか。


 仕方ない。『失せろ……俺の邪眼の餌食になりたくなかったら失せろ!』と言って黙らせるか。

 俺レベルにとってヤンキーを黙らせることなど容易い。


 「う、失せ」

 「ああっ!?」

 「ヒ、ヒイイ!」

 

 気のせいかわからないが悲鳴の入り混じった声を上げる。

 まさか怖がっている……この俺が!?


 何故だ。何故俺が恐怖を感じているのだ……

 すると脳裏にあの悪魔が言い残した一言が浮かぶ。


 『貴様はいずれ戦うだろう。その相手は今の姿の貴様にとっては最悪の敵となる』


 まさか……この男が最悪の敵……!


 「あ?」


 思えば俺の顔はさっきからひきつっている。普段の俺ならこんな相手に怖がるはずが……はずがない、な。

 うん、ない。本当だからな!


 だがどうする……このままだと俺は。この男と戦うことになる。

 だがなあ最悪町一つ滅ぶしどうしたものか。べべべ、別にビビッてるわけではない。


 「オイクソガキ」

 「へ?」

 「ついてこい」

 「は?」

 「だからついてこいって言ってんだよ!」


 最悪だ。最悪のことになってしまった。このままだと……このままだと。

 家にたどり着けない!

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