002.あんみつに入ってるお餅は求肥って言うんだって
闇夜の中で浮かび上がる白い壁が目に留まった。
城壁か、大河さんちの車の中から眺める白壁は暗闇の中でも街の光を反射してひた続く。
「結構長い城壁ですが、何でしょうかねコレ。」と素直に俺はジモティー方に尋ねると。
「白河城の城壁と駅周辺の壁だね。」と親父さんが応え。
「今お城って工事中だったっけ?」と大河君が合いの手を入れる。
「工事中ですか、なら見学は無理でしょうかね。」と俺は尋ねる。
お城巡り。
旅行じゃないと言い張っているこういう旅を結構繰り返しているが、お城だけは必ず見る様にしている。
「いや、三の櫓がもう登れるはずだから、行って見るといいよ。」と親父さんが教えてくれる。
ふと視線を斜め上に向けるとライトアップされている城が見えるようになった、結構でかいぞ。
「立派ですね、でもあれで櫓なんですか。」と感想を口にすると。
「いや、小さい方だよ。」と親父さんは苦笑いをする。
掛川城よりは大きく思えるが、あれで櫓扱いか。ライトアップ補正で立派に見えるからだろうか。
福島県白河市、観光スポットと言えば白河城と南湖公園と丹羽長重の墓くらいなので一日あれば余裕で回れると思うくらいであったが、それらのスポット間の移動距離が思ったより大きい。
他には、この街にあるアウシュヴィッツ平和博物館という脈絡が分からない異様に浮いている場所があるがここに寄る気は無い。これ誰得。
「明日、南湖公園とお城見て、丹羽さんのお墓は時間と相談で行ってみます。」と伝えるも、
大河君は「その辺一度も行った事無いなあ。」と地元の観光スポットに行かない、よくいる地元若者的な言葉を発する。
俺だって札幌と市川の観光スポットは知ってても足を運ばないからその気持ちは分かる。
大河さんちの車はカーナビに従いくねくねとした道を曲がりながら目的地であったデニーズへ到着する。
立地も不思議だが、道筋が実にややこしい街だというのは昼間のプチ迷子体験で実感している。
デニーズが何かの地元隠語かと思ったらそこは素直にファミレスのデニーズであった。
「何名様ですか、おタバコはお吸いになられますか?」と店員さんに言われるも、ここは大河君が「3人で、タバコはー吸わないかな。」と対応している。
親父さんの露払いを大河君がやるという事は、現代でよくある『親に飼われてる30代児』という立場では無いという事が判明したので少し安心。
通されたソファーテーブル席へ3人が座り、メニューを開くも、「お飲み物は何にしますか。」という店員さんの言葉に俺は条件反射で「アルコールとカフェインが駄目になってるんだ。」と応える。
元々、大河君が下戸なのは知っているし親父さんが運転手なので酒という選択肢は無い。
となるとジュース?嫌だよ、外食でジュースとかコスパ悪い物は頼まない主義なんだと思ってメニューを見ていると「ホットコーヒー。」と親父さんが注文した直後に「ハーブティー赤。」と俺はさりげなく風変わりなチョイスをする。
ハーブティー赤、バイオハザードの回復アイテムか何かかよ。と注文した後で脳内突っ込みをするが俺の顔は至って真面目を維持する。
大河君は「コーラで。」と注文するが、太る太らないは別として外食でジュースを頼むという事は、この子は将来お金持ちにはなれへんなという感想が脳裏を過ぎる。
自戒、外食で同じ物もしくは同じ味だろう物は二度注文しない事にして見聞を広く持つこと。
そこへ続いて親父さんが「夕飯には早いが小腹が好いたな。あんみつを頂戴。」と店員さんに頼む。そこへ間髪入れず「私もあんみつをお願いします。」と発言し、それを聞いた親父さんは大河君の顔を見てから頷き合い、「あんみつ3つでお願いします。」と注文をする。
リーダー格と同じ注文を続け卓の流れを混乱させない。意外とこういうやり取りが大人の社会では役に立ったりする。
「えーと、あれもいいなあ、これもいいなあ。」と集団の時に注文で時間をかける人間は低く評価される。別に太鼓持ちに徹しろと言う訳でもないけど。
ちなみに道産子とあんみつは接点があまり無いので選択肢に入る。北海道にあんみつはあまり無い。
注文をしてすぐに親父さんのホットコーヒーが到着する、ホットコーヒー早すぎだろ。
さて、何の話題を振ろうか。と思ったら車の中に家系図及び除籍謄本や大正から昭和初期の写真コピーを車の中に置いたバックパックに入ったままなので家系ネタを披露することが難しい。
うっかりという訳でも無いが、ファイル持ってくるのもあざといかなーと思っていたからだ。
ならば話題とするなら近況報告をしてどこまで打ち解ける状況を掘り下げるかだ。
「んー、一回都落ちして自衛隊に入って辞めてドカタやって配管設計士になった話まではしたかな?」
「ああ、スカイプとPUBGのチャットで聞いたよ。その後ベトナムやタイに行ったりして体壊したまでかな。」
「うん、体壊した原因がXXの下請けで『人員予算消化の為に何もさせてくれない状況』に数ヶ月隔離されてたからというのは話してるか。」
「今時まだそんな話があるんだな。」
「その後は退職金代わりに通った傷病手当で生活しながらネットゲーやって小説読んで、株が大当たりしたんだが儲けが出ると傷病手当止まりそうだから売れずに持ってるけど。理屈では300万を2年で540万に増やした事になってる。だけどこのお金は使えない。」
「次の勝負の種銭だな。」と親父さんはニヤリと笑う。
「その通りです。現状は一応、不眠症と胃腸障害の病人なので働かずに済んでますが。株で食っていくにはまだ足りず、働くにしても万全の状況まで回復を待ちたい。でもこうやって旅に出てます。」
「俺はここ10年ずっとコンビニ店員だったよ。」と大河君が溜め息を付く。
「ベトナムのホーチミン近くでAK47を撃てるガンセンターがあるらしいからベトナムとか旅してはいかがか?」と俺は大河君の行動力を試そうとするが、「AKかぁ。」と叶わぬ夢を見る様な顔をしている。
親父さんの方はそういう話題にウキウキした顔で聞いているので若い世代に元気が無く、親の世代がパワフルなのは時代の流れだろうなと思った。
「ちょっとトイレ行ってくる。」と親父さんが席をはずした。このタイミングを待っていた。
さっきまでの雑談は表向き、ここからがガチの友人間のやり取りが始まる。
「クラがやってるネットゲー。」
「ESO以外なし。そういえばECOが死んだな。ヘッドロック結構好きなんだけどな。」
「ECOが終わるとなると中兄ちゃんは?」
「エルソードとアラド戦記、上兄は黒い砂漠を少しやってたが引退。」
「クラの移住先は?」
「無し、シヴィオンラインとキャメロットアンチェインの音沙汰無し。ESOからFF14ちゃんへ流れたり来たりする奴が多いがFF14ちゃんをやる気は無い。PSO2は完全に駄目だな。」
「PSO2はまたやらかしたらしいしね。FF14は疲れるからいい。」
「もう何やっても驚かんよ、セガサミーの株価落とさなければどうでもいい。所でお前、中兄からのフレンドリクエストをキックしたんだってな。やるじゃん、あいつめっちゃ根に持ってるぞ。」
「え、来てたの?スチームかなー。プレイしてるゲームが合わない人からのフレンド要請はブロックしてるからねえ。そういえば最近またROをちょっと復帰したよ。」
「俺もやった、サバはブリザ?ワイはそこで修羅ちゃんで天羅クルクル5キャラカンストさせて飽きて半年で引退だったな。」
「ブリザではやってないなあ。友達とまったりプレイだよ。」
「ROやってて思ったんだけどよ、ROのアイテム転売でお金作るよりリアルの株の方が楽だと思えるんだよな。金を数字と割り切ればネットゲーのアイテム転売となんら変わらん。」
「理屈は一緒だからねぇ。」
「後はフリーゲーム巡りを人気ベスト10上から順にElona、洞窟物語、魔王物語物語、らんだむダンジョン、までやったけどらんだむダンジョンのレベル上げがきつくて挫折した。Elonaはウティマとか倒して次はマニに挑むためのハーブ園作成で挫折。何が悲しくてゲームでも自キャラのレベル上げせないかんのよ、リアルのレベル上げもせんといかんのに。巡り廻るをやる前でフリゲー旅はストップしてるな。」
「洞窟物語は面白かったなぁ、魔王物語は知らない。でもリアルレベルは自動的に上がるじゃん。」
「まぁな。ああ、Lv33おめでとう。」
「なろう小説は?」
「友人に教えてもらった自販機に転生する奴以外はこれといって真面目に見てないな。」
「なにそれおもしろそう。」
「タダでラノベ見ようと思えば市川図書館にいっぱいあるしな。すげぇよ市川図書館、オーバーロードが全巻読める。」
「なにそれ。図書館すごいな。」
「俺が市川から動かない理由が図書館の蔵書量とジャンルの広さが原因なのもある。」
と、ここで親父さんが戻ってきたので当たり障りの無い話題と真面目そうな表情に俺は戻る。
「あんみつ3つとハーブティー赤とコーラお待たせしました。」と店員さんがトレイの上からテーブルへあんみつ等を置く、ハーブティーめっちゃ赤い。真っ赤じゃないか!
ティーポットに入ったその赤い液体はまさにネットゲームでよく見かける体力回復ポーションである、メニューに載せた奴は絶対狙ってやってると思うが、そんなくだらない感想の笑いを堪えてポーションからカップへハーブティーを注ぐ。
「これからどうするの?」と大河君が質問してくるが、これの答えは難しい。
「正直に言うと、お前さんの顔を見てから山形のご先祖様の事調べた後はノープランなんだ、風が行く先を教えてくれるんだろうたぶん。」と適当な事を言っておくが間違ってはいない。
「青森はコンプリートしてるはずだし仙台の方角は観光した事が無いけど震災後に向かうとなるとあちらも余裕が無いだろうから俺みたいな人間がブラリはしない方がいいかな。となると北西に向かうか、いっそ市川の巣に帰って次の旅の目標である伊勢参りと和歌山の母方先祖の滅んだ村を見に行くか。でも旅するならアジア離れて英語圏に行けよとネットゲーのフレンドに言われてるから英語圏にも行きたいが、
飛行機エコノミーで4時間以上乗りたくないからなあ。」
道中考えていた目標と悩みをだだ流しにする、恐らくは理解が追いつかれないだろうと思いながら本音を吐露する。
「働くという選択肢は無いな。復調すればそれに越したことは無いが、来年の夏までは今の状況は維持出来る。理想を言えば若隠居したい。」
「あんみつ甘いなぁ。しみるねえ。」と大河君は俺の発言を華麗にスルーをしてあんみつを頬張る、こういう人間じゃないと俺の友人は務まらない。
「あんみつにカラフルなお餅が入ってるね。知らない文化だ。」と俺はあんみつに視点を落とす。
あんみつは黒糖の甘みとカラフルな餅の食感が合わさっておいしかった。
道中常に表情を殺して黙々と電車内で漢文を読んだり歩いたりしていたが、食べるものは朝食べたバナナ二本から公衆トイレの手洗い蛇口から出る水をペットボトル(ちょっと前話題になった無色の紅茶)に移して飲んでいたくらいの貧乏旅である。宇都宮辺りで駅弁買って食べても良かったなあ。
あんみつを平らげた後にはチビチビとハーブティーを飲みながら大河君の出かたを伺うも。
彼はスチームのゲームプレイ履歴を見る限りではコンビニの仕事とゲーム以外まったく何も出来ない状況である事が察せられるので自分から話題は振ってこない。と思った時に。
「最近ドン勝つやってないねえ。」とPUBGの話題を振ってくるが、
「時間帯が合わないなら仕方ない、俺は夜11時か12時には必ず寝る上に起きるのが朝の10時くらいだ、生活時間がマッチングしない。」とお互いに暮らす時間の差を実感する。
「そろそろじゃないかな。」と大河君は時計を見て親父さんの方をチラ見すると。
「よし、じゃあラーメン食いに行くか!」と伝票を持ってレジへ向かった。
車まで出して貰ってあんみつとハーブティーをご馳走して貰う事になりそうだ。申し訳ないと思いながらも「ありがとうございます、ご馳走になります。」と会計後に親父さんへ伝える。
しかし、白河ではラーメンが評判であるとは言われていたが、道産子である俺をラーメン屋に連れて行くという事はよほど自信のある店なのだろう、楽しみだ。
と、そのタイミングで俺の電話が物悲しい曲を流し始める。
「あ、電話。はい、ああ、チェックインですか。え?お風呂21時までですか。」と予約していた大村温泉旅館からチェックインが何時かの確認電話。そういわれれば予約した時にチェックイン時間を聞かれも言ってもいませんでしたね。
「んー、今から向かいます。」と親父さんの顔を伺いながら答える。
「クラの予約してる宿に先にチェックインし行こうか。」と大河君がフォローを入れてくれてこれはありがたい。
暗く曲がりくねった夜道を大河さんちカーが行く。
周囲には既に人里少なく、ハイビームに照らされた黄金の穂波が雨を受けた後だからか、大きくうな垂れている。
その水田を横目で見ながら「この辺はもう収穫期ですよね。」と俺は親父さんに尋ねると。
「ああ、雨が降ったら収穫出来ないらしいよ。」という事を教えてくれた。
米は雨が降ると稲刈りが出来ないのか。なんでだろう、今度調べておこう。
大村温泉旅館、宿泊費が安い割には立派な宿であった。
やべぇ、間違って高いとこに来ちまったか?と不安になりながらバックパックを車から降ろし正面玄関へ入る。
立派で広々としたホールの中央でテレビを見ていた婆ちゃんがこちらへ振り返り、「はーい、いらっしゃーい。」と声を掛けていたので「予約していた真宮という者ですが、チェックインをしに参りました。」と伝える。
すると「ちょっと待ってね。」と言いながら足をひょこひょこさせながらホールの奥へ向かう所へ、後ろから付いてきた親父さんが「トイレ借りてもいい?」と婆ちゃんに声を掛ける。
「そっちの方、電気付けて使って。」とトイレのマークがある入り口を指差した後にホール奥へ消えて行った。
しばらくするとホールの奥から若い部類のおばちゃんが出てきて、
「お部屋にご案内しますね。」と言いながら俺の案内をする様にホール左手に進み階段を登り始めた。
客室は洋室だが異臭も無いし綺麗な部屋であった、これで朝食込みで4500円なのだから宿としては大当たりである。しかも温泉がある。
客室にバックパックを置いてから部屋に鍵を閉める。だが、この鍵は出かける時にフロントへ預けるのがホテルのマナーだが、フロントには婆ちゃんがいるだけである。
俺はその無用心さに苦笑いをしたが、それを察してかおばちゃんが「大丈夫、変な人が来る所じゃないから。」と言ってくれるが「金目の物は財布以外持ってないから問題ないですよ。」と答えておく。
盗まれたら困るものはあるけど、お金にはならないだろう荷物ばかり。
俺の人生は大体そんなものばかりだ。
旅館から、いざ大河さんちカーで向かうはラーメン屋らしい。
親父さん曰く「一番有名ではないけど変わったお店だよ。」というので期待感が高まる。
恐らく親父さんは俺が道産子だと知っているのでラーメンに厳しいのは承知済みであろうから絡め手を使うつもりなのだろう。
農地と林をしばらく抜けて見えた店の列、ドライブインにしては風変わりな位置で宣伝するには地味過ぎる位置にあるそのラーメン屋は手打ちラーメンの『あずま食堂』。
翌日に知るが、なぜか存在した林は南湖公園の物だと分かる。
入店後に「いらっしゃいませー。」と言われるが客席はそこそこ埋まっている。
丁度よく一席空いたのでそこへ通されるとメニューにはデカデカと『シロミソタンメン』と書かれていて、お値段も700円と安いので量に不安を覚えサイドメニューに一瞬目を向けると、親父さんが「量は多いよ。」と教えてくれる。
「じゃあ、白ミソタンメン3つで。」と先ほどのあんみつの様な流れで注文が決まる。
もうちょっと砕けた感じのメンバーであったら色々頼んでお互いに料理をシェアするという現代日本人らしからぬ事をする俺の気質だが、今回はリーダー親父さん主導にお任せしたい。
白ミソタンメンはすぐに来た、一杯目が来たと思ったら「お客様からどうぞ。」と親父さんが俺にそのラーメンを勧めてくれるが、すぐに残りの2杯もテーブルに並ぶ。
でかい、熱い、具が変わってる。
完食は出来る量だろうが、女子供はこれを食いきれるのだろうかと思う量である。
少量にして「女性やお子様に食べやすく。」と謳いながらドンブリを小さくする現代ラーメン屋の真逆を行っている。これは強い。
では、味を見てみましょう。
まずは具材に『ネギが無い』代わりにニラが入っている。これはあまり見ないラーメン文化。
更にはコーンともやしが入っている。これは北海道かチャンポンの文化。
出汁は鶏がらだろう、ミソは白ミソで大豆の風味がしない、え?西日本風?
油は少ないさっぱり系。添加していないのだろうか、ラードの臭いはまったくしない。
麺が手打ちというだけあって独特の歯ごたえ、モチモチっとしている。
チャーシューは普通である、特筆すべき点は無いがコストを考えるとプラス。
そして店員さんの「いらっしゃいませー。」と「ありがとうございましたー。」が微妙に西日本独特の訛りであるのがすごい気になる。
いや、ラーメンに集中しよう。
「変わった店でしょ?この店は開店してる時間も短いからおもしろい。」と親父さんはニコニコしながらラーメンを冷ましているが、確かに変わった店だ。
何よりこの味とボリュームで700円はたいしたものだ、ラーメンの価格のほとんどがショバ代だと言われる理由がよく分かる。
西日本と東日本のラーメンの扱いが違うのを考えても700円でこのレベルを食べれる店は北海道には既に無いし関東にもない。
宿もそうであったし道中の物価を見ても思ったが、この辺りはコストパフォーマンスが良すぎる。
その影響が他にしわ寄せされているはずだ、北海道の労働賃金みたいに。
今日はまだ暖かい気温だったので熱いラーメンを食べると汗をかくくらいだ。鼻水は出た。
親父さんが「もう食えない、持ってってと。」大河君に食べきれなかったラーメンを差し出してるのが微笑ましい。
「ごちそうさまでした。」と数日ぶりに満腹感を堪能したが、ここから急いで宿に戻らなければ温泉が閉まってしまって入れない上にこのラーメン屋も暖簾を片付け始めたので白河市民の早寝早起き具合がよく分かる。
ラーメンも親父さんに奢って貰って申し訳ない気持ちになったが、ここまで来たらお言葉に甘えて大河君が将来ピンチになった時が来たら帳尻を合わせようと誓う。
車に乗り込み宿へ向かう道中は他愛無い話だけをした、こうなれば後は別れの時を待つだけだ。
「明日からコンパス無しで旅はきついので、コンパスを買う所からスタートですよ。」と俺はこぼすと。
宿に車を着けた親父さんが「じゃあ、これを使うと良い。」と腕時計にくっ付けていた方位磁石を渡してくれた。
これは知っている、親父さんが20年以上も腕時計に常に付けていたコンパスだ。
小学生の頃から覚えている。
「もう使わないから。」と親父さんは寂しそうな顔を一瞬してから俺の手に渡ったコンパスに語りかけた。
うちの親父みたいに、大河の親父さんも深い山奥や知らない土地を当ても無く旅する事はもう無いのだろうかと、この時感じた。
「ありがとうございます。しばしの間お借りします。また10年後くらいに顔を見せに来る予定ですので、その時にお返しします。」と俺のプランに10年後の旅が確定した。
地図とコンパスを得た。
これは闇を払う最強の装備である。
・ラーメンの東西の扱い
東日本だとラーメンは主食だという認識が主立っている。
西日本、特に九州辺りまでいくと「一杯やった後に引っ掛けるか」くらいの値段と量と味付けである。
ちなみにこれがうどんになると逆転する地域がある。