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寺生まれのOさん

わが町の中心街外れに建つお寺の、二代目住職Oさんには、霊力が完全に"無い"

というか人は誰しも、子供の頃に少なからず不思議な体験をするものだが

寺生まれで秀才だったOさんは、子供の頃から、自分で「不思議だ」と思った現象は

必ず完璧に理解するまで調べ尽くしたそうだ。

中学生の頃に木造のお堂にラップ音がして、檀家さんが怖がれば、

昼夜の温度差や材質などを徹底的に調べ上げ、「これはこういう科学的な反応で音がするのです」

と、皆に分かり易く語った有名な逸話すらある。

子供の頃からそういう理詰めでものを考えることを続けていると、

霊力というのは無くなっていくらしく

元々霊的なものへの親和性が薄かったOさんは、どんどんその手の世界から遠ざかり

今では、霊力が完全に消えてしまっている。


ところでOさん寺では町寺には不釣合いな、全国でも有数の国宝級仏像を所蔵している。

この仏像がまた曲者で、二メートルほどの大剣を持った厳つい仁王像なのだが

深夜にお堂で勝手に木魚を連打したり、床を軋ませながら室町時代風な踊り(念仏)を踊ったりと

実にファンキーだが、非常に近所迷惑で困りものな呪物だったのだ。

それで以前に収蔵していた有名なお寺さんが根を上げて、

縁のあるOさんの所に半ば無理やり寄贈してきたわけだ。

当時、Oさんは必要な保存処理を施して友達や檀家さんたちに見せるために、

惜しげもなくお堂に飾っていた。


小学生の頃、おかんたちが飲み仲間のOさん寺で、夜明けまで宅飲みをするので、

連れてこられて、別の部屋で飲み会しているおかんたちを尻目に

一人でそのお堂に泊まったのだが、

布団で寝ていたら件の仁王様に顔を軽く叩かれ、思いきり覗き込まれた。


涙目で枕を持ったまま、おかんたちの飲んでいる居間に向かい、

おかんに泣きついたら「仏像が動くくらいで五月蝿い」と何故か怒られたので

Oさんに告げてみたら「それはいかんなぁ、行ってみようか」とお堂に付いて来てくれた。

恐る恐るお堂の引き戸をガラガラ開けると、俺の目には仁王様が踊っているのが見えたのだが、

どうやらOさんには何も見えなかったらしく

「うん、何も聞こえねえし、何も見えねぇからわかんねぇな!破っ!」と叫んだ。

Oさんがそう言い放った次の瞬間には、お堂は静まり返り、仏像は元の位置に戻っていた。

個人的には、ただの仏像に戻った仁王様の顔が何かシュン……と寂しそうなのが笑えた。

余裕の後姿で、居間に飲み直しに行くOさんを見て、寺生まれって凄い。と俺は素直に思った。

それから何年も経ち、どうしても気付いてくれないOさんにすっかりやる気を削がれたのか

仁王様もただの仏像になってしまったようだ。最近見にいったら本当に木像にしか見えなかった。


その後、どうやらその件が評判になったらしくOさんのお寺には、

戦国武将の愛刀として血を吸いまくった業物やら、謎の成分でできた有名彫氏の仏様やら、

江戸時代に近松門左衛門の新作演目に使われたことのある、髪が伸びる歌舞伎人形やら、

夜中に絵が動き出す有名浮世絵師の掛け軸やらが集められて、最近は、大層拝観料で儲けているそうだ。

拝観料は500円。展示品の充実の割りには、まあ良心的な価格だと思う。

営業時間は、朝のお勤めが終わってから、夕のお勤めが始まるまでの9:00~17:00。

儲けたお金は集まった美術品の維持管理と、

お寺で定期的に開かれる飲み会の費用で綺麗に消えるそうだが。


飲み仲間のおかんは

「あの人は、全ての霊現象が透過してるわ。

 霊的な世界では"存在しない"ってことよ。逆の意味で聖人様並のレアケースだわね。

 極端に言えば彼には魂すら感じないわよ。ほんとに何で生きてるの?凄い。さすが寺生まれ。

 あと年取っても老けないねぇ…ダンディだし」

と、いつも謎の感心をしている。

興味を持った先輩も一回お寺に行こうとしたのだが、どうしてもたどり着けなかったらしい。

おかん曰く「M君は霊現象の塊のようなもんだから、そこにお寺が"在る"ってことすら分かんないだろうねぇ」

どうやらOさんは、長年住んでいるお寺ごと霊世界から隔絶されてしまったらしい。

今日も全国津々浦々から新たに強力な呪物が持ち込まれるたびに、Oさんはこう言い放つらしい。

「うん、俺には何も聞こえねえし、何も見えねぇから大丈夫だぜ!破っ!」

寺生まれって凄い。改めてそう思った。

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