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二話目

普段、Mさんは古物商のようなことをしている。

築何十年のボロボロの借家だが、一応店舗も持っている。

「うーす、頼まれたもん持ってきましたー」

「おおA。悪い悪い、ま、茶でも飲んでけや」

奥の居間に通されて座布団に腰をおろす。

「はい、どうぞ」

風呂敷に包まれたものを解いて、机に置いた。

「またおかんから超怒られましたよー、それは持ち出すな!って」

「ああ、その"箱"はなあ、確かに相当やばいからなあ」

「おかんなだめるの大変でしたよー。

 絶対使わないから大丈夫だって言い張って、持ち逃げしてきました」


この"箱"は見た目は普通の木箱で。大きさはルービックキューブくらい。

ふだんは家の便所に、おかんの趣味のカエルの置物たちと一緒に飾られているものだ。

なんでも、遥か昔に何百体もの悪霊や物の怪の、怨念や怒りなどを

とある有名な行者の法力で封じたものらしい。

まあ規模の大小はあれ、霊能関係では割とよく聞く話かもしれない。

俺にはそんなヤバイものを見たがるMさんよりも

便所で埃を被ったまま放置しているおかんの神経が分からない。


「で、Mさんこれ何かに使うんですか?」

「まあとにかく、こっちのも見ろよ」

Mさんも小さな古い箱を持ち出す、凄い霊力というか怨念を感じる。

「あれ、これってもしかしてコ○リ○コじゃないすか」

「そう、所謂あれだ」

「所謂じゃないすよ。制御が効かない分、ある意味そっちの方が相当ヤバイすよ」

「そんなことはどうでもいい。ところで……」

Mさんの顔が急に真剣になった。

「お前の持ってきた箱だが、多分お前なら"開け"られるよな?」

「まさか、コ○リバ○"焼かせる"んですか」

「別にそれならMさんの"アレ"にやらせてもいいじゃないですか」

「いや、それでもいいんだが、失敗した場合、多分Aのおかん来るじゃん」

「いやそりゃそうですけど。それが何か」

Mさんの顔が泣きそうになる。

「俺、もう嫌なんだよ~説教食らいながら便所スリッパで全身痣まみれにされるの~」

「……」

そんな理由でこの"箱"に焼かれる、このコト○バコに少し同情した。

ある意味Mさんの"アレ"の方が、同化されるからまだいいのではないか。

出された茶を少し啜った。よく見たら茶柱が五本くらい浮んでいる…なんか作為を感じてうぜぇ……。

「ふー……いいっすよ、で、焼き具合はどの位が好みですか?レア?ミディアム?ウェルダン?」

「跡形も無いほうが持ち主も助かるから、ウェルダンで」

「なんだ、やっぱり依頼主が居るんすか。じゃ報酬の四割は頂きますね」

「しまった……うちも不況で厳しいんで三割でお願いします……」


風呂敷を四方にきれいに広げると複雑な曼荼羅が現れた、

その中央に箱を置く、あとは呪文を唱え、術式を組み立てるだけだ。

おかんに長年助手をやらされているから、こういうののやり方は詳しい。

「業…い…吸いし……喰ら……ハ……オン……バ…ラ……」

一通り終わると曼荼羅と箱が鈍く光りだした。

「よしっ!大体できました。Mさんの方はどうですか」

「こっちもオッケー。セット完了。これで逃げられないだろ」

柱に荒縄で四方から繋がれた○ト○バコが見える


「では、"開け"ます。Mさんは部屋の隅で避けていて下さい」

「よっしゃ、了解。何回見てもこいつはドキドキするな!なんというか、胸が熱くなるな!」

かなり余裕のある先輩にムカつきつつ、術式の最後の締めをする。

「"囲え"!"箱"よ!」

そう唱えた瞬間、その箱は空中に浮き上がり六面に分解した。

そしてそのまま、コトリ○コに向かい、それを六方から囲い込んだ。

「ではウェルダンでいきます。"焼き尽くせ"」

そのまま徐々に包囲を狭めていきながら、それらはゆっくりと紫色の火花を放ちだした。

そして火花はコトリ○コの表面に燃えうつり、外側からジワジワ焦がしていった。

やがて火が内側に達しそうになるとき、中から悲鳴があがり出した。

「うわぁぁぁぁん…お母ちゃぁぁぁん、熱いよぉぉぉぉぉぉ!!」

「水……水を……火が……」「痛あぃ……いたいよ……」

何十人もの子供の悲痛な叫び声が、箱から大音量で聞こえてくる。

その声に聞き入っていると、俺は地獄行きなのがさも当然のように思えてくる。

本当はこんな呪術を作った輩が最も劣悪なのだが。


もう少しで全ての部分が焦げて無くなろうとしているまさにそのときだった。

ズルリと中から何かが抜け出て、師匠の方へと向かう。

「ありゃ、術式が間違っていたかな。少し逃がしちゃった。Mさん気をつけてー(棒読み)」

「ぉぉぉぉおおおぉぉおおぎゃぁぁあ!!あぁあぉおぉいぃぃぃうううぃい!!!!!」

叫びながら猛スピード這っていくその塊が、先輩と接触する直前に

その肩から真っ黒な腕が現れて、その赤黒い赤ん坊を宙にさらった。

さらに何も無い空間に大きな黒い上下の唇が現れ、

真っ黒な腕がそのあいだに赤ん坊を頭から詰め込んだ。

「ぎゃああああああああああああ」という断末魔と

バリバリムシャムシャという気色の悪い頭蓋骨を噛み砕く音。

先輩のアレだ。旨そうな餌に反応して出てきたようだ。

それは頭蓋骨を一通り噛み砕いたあと

ジュルリ!とさらに気色悪い音を立てて、

赤ん坊の残りの柔らかな身体を吸い込んだ。

「うぇぇぇぇぇぇ……毎度のことながら気色悪いっすねえ……」

「そう言ってやるなよ…こいつも我が身体の可愛い一部だよ」

と言っている先輩の顔は苦笑いしながらも、いつものように若干引きつっていた。

先輩の肩口の上の空間に浮んでいる"黒い唇"が喋る。

「ゴ……チデ……シタ」

「うわっ…言葉覚えたんすか、進化してますねえ、しかもゴチとか言ってますよ。ナウなヤングw」

「うっせボケ。知能が進んでるのは良くない兆候なんだけどな。こっちは泣きたいよ」

「Mサ……ンモットク……ワセテ…モットモ…ットクワセテ」

「謝意をあらわすことも、要求することもできるんですねぇ…敬称すら覚えてる。

 はぁ……真面目に日本語覚えさせて、一人漫才でもやったらどうですか。

 "業界人"には絶対うけますよww」

「……お前のおかん呼んでくれ……報酬の五割はやるから……」

珍しく本気で弱気になりだした先輩が、さすがに可哀想になり、

おかんに携帯からノイズの酷い電話をかける。


その後は、すぐにぶっ飛んできたおかんに説教に次ぐ説教をされながら、

二人とも便所スリッパでぶったたかれまくり痣だらけになった。

先輩は、なんとかアレをまた封印してもらえたが

報酬の七割をドサクサにまぎれておかんに強奪され、涙目になっていた。


俺はさらにその後、家に帰ってから顔を合わすたびに

おかんから便所スリッパで顔面や肩を数十回ぶったたかれまくった。

最後は真夜中に部屋に侵入してこられて、寝ている布団の上から二十回ぐらい叩かれた。

寝ぼけ眼で猛抗議する俺におかん曰く、これでも「まだ足りないかもしれない」らしい。

箱の方はこの家のものだし大した事無いのだが、

それより先輩のアレの"穢れ"がかなりこびり付いているらしい。

「油汚れはしつこいからねぇ」とはおかんの弁。

"箱"は没収された。何でも俺がまた小遣い稼ぎに悪用しないように

知り合いの高位の坊さんに引き取って貰うらしい。

しかし、数日したらまたトイレのカエルの置物たちの隣に置かれていた。

なぜ元の場所に戻ったかは、いろんな意味で怖くて未だに訊けていない。

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