四の剣【剣を刀に】
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次の日俺は【ヴェル】を出発し、駐在する町【ダレン】に向かった。そして中継する村【ステラ】についた。
宿を取った後、【ダーク】を直すため鍛冶屋に向かった。
鍛冶屋の名前は【ブレイク】。
この名前、駄目だろと思いながら、俺はその鍛冶屋に入った。
「すいませーん」
「あ?」
そこには、まるで大樹のように生気溢れる茶色い短髪で、野獣の様に鋭い金色の瞳をした美女が、座っていた。
「……いらっしゃい」
機嫌が悪そうだった。俺は厄介そうだと思いながら声をかけた。
「剣の修繕をお願いしたいんですが?」
俺がそういうと、チッと美女が舌打ちをした。
「ちょっと待ってろ」
そう言って奥へ引っ込んでく。
俺はやる事が無くなったので飾っている武器を見た。するとある一角を見て俺は奇声を上げてしまった。
「あああああぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
それを聞いて美女が怒鳴り散らし戻ってくる。
「うるせぇぇぇぇぞ!」
怒鳴られて、正気に返った俺は、まず謝罪した。
「ああ! すいません!」
「ったく! なにを騒いでんだか」
独り言のように呟いたのを、聞いて俺は食って掛かる。
「騒ぎもします!」
「なんでだ! うるせぇ!」
それに美女が、聞き返す。
「だって! 刀が! 太刀が! 小太刀が! あるんですよ! そら騒ぎもします!」
俺がそう騒ぐと、美女は目を丸くした。
「……あんた、刀が分かるのか?」
そう言われ俺は、正気に戻る。
「えっと……まあ」
俺の反応を見て、美女は何かを察したのか。ため息を吐く。
「我らは一人の民のためにか……あんた名前と職業は?」
「い、イツカ。冒険者です」
唐突な質問に思わず、真面目に答えてしまう。
「ランクは?」
「えっと、俺はまだまだで」
誤魔化すようにそう言うと、美女は眉を潜める。
「正直にいえ。それから敬語やめろ」
「……ランクは一応Aだ」
「合格だ。それから言い忘れてた。謙遜もするな」
「え……」
この世界で始めて、謙遜を聞いたため、俺は驚く。
「まず、自己紹介をしてやろう。アタシはポリー=ウィンラ。それから、まずあんたの事情は、聞かないで置いてやる。とりあえず、修繕して欲しいって、言ってた武器、見せてみな」
俺は言われるがままに、片手剣【ダーク】を見せる。【ダーク】を見たポリツは、笑ってとんでもない事を言う。
「あんた、コイツを刀にしたいか?」
その言葉を聞き、俺は驚く。
「そんな事が出来るのか?」
そう聞くと、ポリーは笑って言う。
「当たり前だ! まあ、銘は変わっちまうがな!」
「なら、ぜひ頼む。欲しい材料があったら言ってくれ。素材はマジックバックに腐るほど入ってるから」
俺の言葉を聞き、会った時とは打って変わり、ポリーの機嫌は非常によくなっていた。
「おう、まかせな! 今日は賭けに負けてイライラしてたが、刀の良さが分かる奴に会うわ。いい武器を改良出来るわ。最高の日だな!」
ガハハハハとポリーはそう言って、豪快に笑った。
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二日後、漆黒の片手剣【ダーク】は、漆黒の刀【夜未斬】へと生まれ変わった。
「振ってみろ」
ポリツにそう言われ、【夜未斬】を振ってみる。
「ふっ!」
手に馴染んでいた。俺は歓喜に震えていた。
刀だ。俺の分身がここにある。
俺の反応見て満足したのか、ポリーは言った。
「今回、打ち直し代はいらねぇ。変わりにアタシと勝負しねぇか?」
「よろこんで。それから、ありがとうウィンラさん」
俺は微笑んで頷いた。
「ふん。ポリーでいい!」
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「魔法は無し、純粋な剣術で勝負だ。一撃でも有効打を与えた方が勝ちでいいな?」
ポリーは大剣を担ぎ、そうルールを提案してくる。
「いいですよ。俺に関係は余りありませんが」
俺は【夜未斬】を腰に帯刀しながら了承する。
「よし。じゃあ、このコインを投げるから、地面に落ちたら決闘開始だ」
俺がそれに頷くと、ポリーがコインを投げ、大剣を構える。
カンッと音が鳴り、コインが落ちる。
戦いが始まった。まず、笑みを浮かべ、ポリーが切りかかってくる。俺はそれを間一髪のところで避ける。ポリーの剣が叩きつけられ、地面が抉られる。
「おお、すげぇ威力」
「関心してる場合じゃないよ!」
ポリーは返す太刀で、横薙ぎしてくる。それも体を逸らして避ける。そこで俺は刀を抜刀し、ポリーに切りかかる。しかしそれをポリーは大剣を振った遠心力で、受け止めた。
っ! 予想より速いっ!
俺は弾かれそうになる【夜未斬】を振るい、受け流す。
「ほう……」
ポリーは俺の反応に関心した様で、顎に手を当てる。バックステップをし、俺は距離を取った。
「やるじゃないか」
「まあ、これでも、ランクAなので」
【夜未斬】を右手だけで持ち、トントンと足のつま先でならす。
「じゃあ、第二ラウンドを……ちょっと待て」
戦いを再開しようとしたとき、ポリツは何かに気付き、戦いを中断した。
するとそこにワシが飛んでくる。
「ストライク! 元気だったか?」
「クルゥッ♪」
ポリーの腕に降りたワシの足には、紙が巻きついていた。
それを読み表情を変えるポリー。
「悪いな。決闘はお預けだ。決着は今度必ずつけようぜ!」
そういうとポリーは旅支度をして、店を閉め、行ってしまった。ため息を吐き、宿に戻った。【夜未斬】の使い心地は最高だったが、刀を使った最初の戦いだったのに水を差されて、肩を落とした。まあ、刀を腰に帯刀しているのが落ち着くから、いいことにしよう。
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『どうやら、私の【計画】を察された様です。【三剣士】が動いています』
「そうですか……」
銀髪の美青年、バッキンガムはそれを聞き、眉を潜める。
(【フラシェカ】に伝わる伝説が俺の邪魔か――――。なんのつもりだろう? 国家の危機だから? それとも……。なんにしても面白そうだな。これは踏んだほうが面白うな虎の尾だな。なら!)
バッキンガムはニヤリと不適な笑みを浮かべ、囁く悪魔になる。
「なら、最新の魔道機の設計図を贈りましょう」
『おお!』
「申し訳ありませんね――。その【魔道機】にはドラゴンの素材が必要なんです。こちらには足りていない物資ですから、そちらで用意して頂くしかないんですよ――」
『いや、それは仕方ないことです。では、よろしくお願いします』
「はい。では、魔道機【龍合装置】の設計図贈らせて頂きます。では、我らは蛇に従う、故に渾沌を望む者なり」
そう言ってバッキンガムは通信を切った。
「これは、楽しくなってきた」
これから起こる事を想像し、バッキンガムのニヤケ顔は止まらず、とうとう笑い出してしまう。
「あははははははははっっっっっ!! なんて素晴らしいんだろう! やっぱり狂ってこその世界だ! 俺は狂った人間も! 狂った物事も! 狂った世界も! 狂った物を全て愛している!」
バッキンガムはその後も月に向かってその笑い声を響かせていた。
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