二の剣【チンピラのモヒカンを切り落とすのも冒険者の仕事】
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「ヒャッハ――――。盗賊団【ブーマ団】だ。死にたくなきゃ荷物と女を全て置いてきな!」
盗賊の頭みたいな【モヒカン】がそんな事を口走る。
「おい、モヒカン」
「誰が、モヒカンじゃ! 俺様の名前は盗賊頭のブーマ様だっての!」
モヒカンと呼んだら返事が返ってきた。モヒカンの自覚あるんだな。あ、部下から笑われてる。これ多分部下からも馬鹿にされてるんだろうな。ご愁傷様です。それはそれとして。
「うるせぇーぞ、モヒカン。とりあえず質問に答えろ、モヒカン。切り殺すぞ、モヒカン」
「モヒカンって呼ぶな! 俺様はブーマ様だ!」
モヒカンと連呼していると、とうとうブーマが切れた。
「とりあえず、あんたらは俺の敵って事でいいんだな? えっと、そのブーカン様?」
「誰だブーカン!? ブーマとモヒカン合わせてんじゃねーよ! そうだよ、あんたの敵だよ」
その反応を見て、俺は関心して手を叩く。
「おお――。敵ながらノリいいなあんた。見事なノリツッコミ。素晴らしい。流石だなブーマ様」
「お前と俺様は初対面だろうが! それにそこはまた名前を間違えてこそのテンドンだろ!」
「言ってることは理解できるが、そこまで長引かす気も無いしな。それにまさかそれで逆ギレされるとは……。世の中は広いな」
気が付くと馬車は取り囲まれていた。
「はぁはぁ。で、お前は何者だ?」
「あ、俺? この馬車の護衛をしてる冒険者だが?」
俺がそう言うとブーマは笑う。
「そうか、冒険者か。一人か?」
「? おかしなことを言うな。それを教えるとでも?」
まあ、俺一人だがな……。
「お前一人ならやめておけ。俺様の総勢百人が来ている。命を張るだけ無駄だぞ?」
「……えらく多いな」
その人数を聞き、俺は辺りを見回す。確かにこの人数は百人くらい居そうだ。
「そりゃな。町で噂になってたぜ? この馬車にはエライ上玉が乗ってて。そいつがとんでもないお宝を持ってるって」
なんだその話は……。ああ、多分アテセさんのことかな?
まあ、関係ないか。
「ふーん。なんでもいいけど」
俺はそう言いながら道具袋から宝石を二つ取り出し、馬車に向かって一つ、盗賊団に向かって一つ頬り投げる。
それが地面に落ちた途端、馬車は魔力の壁に覆われ、それを覆うように盗賊団の周りにも魔力の壁が形成される。
「しまった! 魔力結界か!」
今投げたものは、【魔封石】と言って魔術その物を封じて置く石で、発動条件がそれぞれ設定されている。今回俺が使った【魔封石】は魔力結界という防御壁を封じており、発動条件は地面に触れたときになっている。
「流石はモヒカンよく分かってる。俺は初めからあんたらを逃がす気なんて、これぽっちも無いぜ」
右手で人差し指と親指で円を作り、触れるか触れないかのところで指を止め、左目を閉じ、右目を細めて言う。
「くそ、お前ら、あいつをやっちまえ!」
「「「「「「「「「「ヒャッハ――――!!」」」」」」」」」」
奇声を上げながら、盗賊達が襲い掛かってくる。
俺は左腰に、下げている片手剣に手をかける。
そして盗賊達が武器を振り下ろす瞬間に合わせて、剣を抜く。次の瞬間、何人かの盗賊達は剣で切られ、何人かの盗賊達は剣圧で吹き飛ばされた。
「ああ――。刀が欲しい――――」
ついつい、そんな言葉が口から洩れてしまう。生前使っていた刀の感触がいまだに忘れられないのだ。
今使っているのは片手剣だが、どうしても長さと切れ味に物足りなさを感じてしまう。
かくいうその片手剣も、遠征した町に出現した狂竜を斬った時に、刃こぼれしてしまった。
しかし、それでも例え刃こぼれしていても、この漆黒の片手剣【ダーク】が一番マシなのだ。
ため息を付き、盗賊団を見据える。
その目を見て、盗賊達は少し怯む。
「おいおい、どうした。この結界は俺を殺せば解けるぞ――。もっとかかって来いよ」
「「「「「「「「「「……ひゃ……ひゃっは――……」」」」」」」」」」
え、なにこいつ等? 『ヒャッハ――』しかしゃべれないのか? なんか弱気になってるし……仕方ない、なら。
「こっちから行くぞぉぉぉぉぉっっっっっ!!」
俺はニヤリと笑みを浮かべ、叫びなら走り出した。
突撃してきた俺に向かって攻撃してくる。それを俺は丁寧に受け流し、切り捨てる。その次も同じように、繰り返す。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
中には魔法を打ってくる物もいたが、たかが知れていた。
そして最後はブーマ一人になった。
「………………お、鬼め」
返り血で血まみれになった俺を見てブーマはそんなことを言った。
「何を今更、俺はお前らが自分のことを敵といった所から、慈悲なんてなかったけど?」
「お前、まさか、【悪鬼羅刹】か?」
【悪鬼羅刹】とは、俺の二つ名だ。相手の返り血を気にすることなく敵を斬り続ける。その姿が鬼とそっくりらしい。
「よく知ってるな」
そう言って片手剣を振るう。血を落とすためだ。その血がたまたまブーマにかかってしまう。
「あ、わりぃ」
するとブーマはガタガタ震える。
「た、助けてくれ!」
ブーマが涙を流しながら、命乞いをし出した。俺はため息をついた。仕方ない。
「なら、お前の命の代わりに大事な物をもらう」
「なんだ! 俺の持ってるものならなんでもやる。さあ、言ってくれ!」
「ならじっとしてろ」
そう言うとブーマは微動だにしなかった。よし。
しかし片手剣を振り上げるとブーマは『約束と違う!』と言って暴れだした。
だが俺は気にせず、剣を振り下ろした。
「かぁっ!」
次の瞬間ブーマのモヒカンは、綺麗さっぱり切り落とされていた。斬られたと思ったのか、ブーマは失禁して気を失っていた。
別に誰一人死んでないのに、大げさな奴らだ。
意識を刈り取るぐらいの怪我しかさせていない。
返り血は、当たり前の事だが、百人斬れば血まみれにもなる。塵も積もれば山になるのと同じだ。俺は別に殺した人間は少ないが、どうしても血まみれになってしまうそのせいで【悪鬼羅刹】なんて二つ名がついてしまった。
俺はため息を付き、盗賊達を全員縛り上げる。
「はぁ……………………疲れた」
俺は徒労を吐き、結界を解除して、木を切り倒して簡易ソリを作り、そこに盗賊達を乗せ、馬車に繋いだ。
重労働だった。
休憩場で川についた時、血のりを落とした。
いつもの事だが、その後、馬車に乗っている誰も目を合わせてくれなかった。
俺はまた一つ噂の種を増やしてしまった。俺の徒労は今日も夜の闇にかき消された。
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「どうでしたアテセ?」
ボロのローブを着ていた者がアテセに聞く。
「やはり彼の右手には【トリニティブレイド】の紋章が刻まれていましたよ。包帯で隠していましたが、私には……【三剣士】の私には見抜けます。それに彼の戦闘能力は素晴らしい。さっきの戦い、誰一人殺さず制圧していました」
恭しく頭を垂れてアテセは言う。
「そうですか。やはり……。ドラゴンを単独で撃破するだけの事はありますね。Aランク冒険者【悪鬼羅刹】のイツカ……彼が」
「ええ。彼が今代の【ダルタニャン】です」
「では、今回の【龍巣窟】も彼に頼みましょう」
「それがいいと思います。我らは国のために」
それを聞くと、ボロのローブを着た者は肩を微かに揺らし笑う。
「楽しそうですね。アテセ、いえ……アトス」
「からかうのはやめてください。アンヌ様。私はからかわれる様な歳ではありません」
アテセは少し頬を赤くし顔を逸らす。
「別にからかってなどいませんよ。アテセ。あなたが外見相応の対応取ってるのが面白いだけです」
「やっぱりからかってるじゃないですか! それにそう言うときは歳相応と言ってください!」
顔を真っ赤にして憤慨するアテセは両手をブンブン降る。
「歳相応はあなたには不適切な言葉です。そうでしょう? あなたの年齢はもうごひゃっ…………はへへ、ほほへほははひははひ(アテセ、この手を離しなさい)」
ボロのローブが喋っている口をアテセは右手で挟む。
「では、女王。もう私の年齢の話をしないと誓えますか?」
アテセはニッコリと笑ってそう言うが、目は全く笑っていなかった。ボロのローブは、首をコクコクと縦に振る。
「しかし、偉く気に入っているように見えますよ?」
挟まれた手から解放されたボロのローブはそう言う。
「それは彼が…………カワイイからですよ」
アテセは人差し指を、ボロのローブの頬に突き立ててそう言った。
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