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「なあ、せめて自動ログインにしないか?」
理解に苦しむことなのだが、10は本人の動きのパターンを認識して、PCにログインする仕組みに変わっていた。
絶望的に面倒くさい。ナナコ女史がいう。
「そんなの駄目ですよお!」
俺にメモ用紙を渡す。毎度のこと。ホテルの部屋番号とハートマークがプリントされている。勿論、俺は相手にもしない。
「個人情報が流出しちゃったら一体どうしてくれるんですかあ~」
知らねえよ。会社のコンピューターに一体どんな情報を詰め込んでるんだ……
「とにかく、そんな格好でいられたらこっちが困る」目に毒なのだ。
「え~、なんでですか~」
ナナコ女史がいった。バスタオルで汗ばんだ首元を拭う。
「会社のPCが全部まとめて10にアップグレードされちゃったら、どちらにしろ皆さんこの格好なんですから、今のうちに慣れておいた方が良くないですですか~」
アメリカの連中はこっちよりも健康に対する意識が強いようで、むこうのセレブどもにはこのログイン方法は好評のようだ……つまり、デブであるこの俺なんてシリコンバレーではもはやオワコンだということか……
「それに考えようによっては働きながらエクササイズもできちゃって一石二鳥なのですよう。OSも一新されて今こそ変革のチャンスなんじゃないですですか~」
確かに10の操作性は7と比べて格段に良くなっている。ネットの検索に使うぐらいなら申し分ない。
だが、お仕事に使う高額ソフトはどれもこれもそれもなにがでるかなこれでもかというほどに動かない上に、しかもアップグレードのエラーなのか不具合が多発、機材をリースしてもらってる業者の連中を急遽呼び寄せ、なんとかすんとか、ウェブのお仕事に差し障りのないレベルまで調整できたというのが目の前にあるタワー型PCの現状なのである。
ナナコ女史にはHTMLを使った雑務の類を本日はお願いしていた。