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嗚呼……いつものパターンだ。説明などしたところで結果は目に見えて明らかだった。
ナナコ女史は俺のこの小さな困惑など脇目もふらず、再びデスクトップの画面にむかって踊り続けた。
無念である。
少し、説明しよう。
この会社の人間は全員がドリフターズをはじめとした根っからのお笑い芸人好きでまじめに説教などしようものならとんでもない方向に話は脱線していき収束する頃にはこっちがなにを話していたのか忘れてしまう有様なのである。
なぜ、お笑い好きばかりがこの会社に採用されるからかというと、お笑い好きには優秀な人間が特別多いから……というわけでは勿論なく、どういうわけだか、そういう人間しかこの会社には集まってこないからだった。
「あ~ん、もう、やんなっちゃう~」ナナコ女史がいった。「チョーさんが話しかけてくるから初めからやり直しなのですよー」
画面の真上──中央に取りつけてあるモーションセンサーにむかって怒鳴りつける。どうやら、パスワード入力というものはもはや時代遅れのようだ。