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「なるほどのう」老人はいった。「ところで、猿。そこの客人はなんじゃ」
「は!」ゴリラ野郎がいった。「こたびの10アップグレードの一件。7の絶対数を確保する上での重要な人物でございます!」
いつから、俺は重要な人物になったんだ……もはや、奴がいっていることも、この急な展開にも俺の脳みそはついていくことはできなかった。
「あいわかった。ところで客人──」俺の方をむいていう。「なかなか、美しい人を携えていらっしゃる」
「妻です!」ナナコ女史がいった。妻じゃねーよ!
「ほう、それはそれは、なるほどのう──」老人は目を伏せて言葉を続ける。「あいわかった。して、話は変わるが客人。わしはほんの少しばかり、小説などというくだらない三文文士業を生業としておりましてなあ──なあに、つまらないものですよあんなのは──」
老人はいくつかのペンネームをあげた。そのなかには有名な売れっ子作家やいくつも文学賞を受賞している中堅どころも含まれていた。
しかし、文庫本の裏にあるポートレートとはまったく別の人物──いわゆるゴーストなのだと老人は説明する。
「ごぞんじないかもしれませんが、小説家という職業は、常に美しいものに接していなければなりません。美の絶妙な感覚を理解していなければ語彙を文章に的確に反映することなどままならないのです。実は、実は最近の私は、少々スランプ気味でしてなあ……」
嫌な予感がした……さむけ……
「まあ、そこで相談といきましょう。我が里としても、今回の10への強制アップグレードには腹に据えかねるものがあります。是非とも、あなた方に協力したい。だが、しかし──」




