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こんな状況であるにもかかわらず、ゴリラ野郎は冷静な判断をくだしていた。落下するバンのなかで、奴はドアを蹴りあげ、できたスペースからムササビの如く舞いあがった。
鳥人間さながら飛行する。驚きのあまり顎が外れそうだった。
取り残された俺とナナコ女史。血の気が引き、気絶しそうだった。
それでも俺は考えを巡らす。とりあえず、ふたりのシートベルトを外した。
俺は助手席のシートを倒して、ナナコ女史の身体を抱き寄せた。柔らかな彼女の感触。だけど、その柔らかな感触も、もう直ぐ単なる肉の塊に変わってしまう……
俺の目元は湿っていた。やけに生暖かい。
愛する女のひとりも助けることはできないのか?──いや、待て、俺は、彼女のことを、愛しているのか?──いや、本当は、愛して、しまって、いるのか?──この期に及んでも、正直な自分の気持がわからない──
深緑の見渡す限りの木々に包まれ、バンは空中で静止した。が、落下の衝撃で横にスライドしたドア。そこから重力に引き寄せられ俺はナナコ女史を胸に抱き落下していく──




