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このホテルの各部屋には、バカでかい壺風呂が備えつけられていた。
竹の壁で三方を囲んだだけの開放的な露天風呂がある。奥から音。
ナナコ女史が身体を流す音。取ってつけたようなこの状況。
湯気のなかにシルエットが浮かんでいる。
滑らかに整えられたその背中。視線を反らしてはいるのだが、窓の外には富士の絶景とともに彼女の裸体が映しだされている。
俺は集中してタイピングを続けた。何事もなかったかのように。
「先にお風呂いただきました」ナナコ女史がいった。
「はい」自分のペースだ。誰もこの部屋にはいないと自分に暗示をかける。
ナナコ女史が缶ビールのリングプルを引く。
ガウンの切れ目から、チラリと覗く交差させた生脚が目に留まった。
欲望の火で俺の肉体は焦げついてしまいそうだったが、必死になって俺は自分を押さえつけていた。
煉獄の炎で焼かれているようだ。
こんな時に一番かけてもらいたい言葉、冷静になれ──




