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「仕方がない」
全員の緊張をほぐすが如く俺はいった。
「もうこうなったら、ヤケだね。アップデート終了までどうにもこうにもなんないよな。ナナちゃん、ひとっ走りしてF屋の特製Sクリーム人数分買い出しよろしく。勿論、サイズはちょービックでね」
俺は悪趣味なワニ皮の財布から福沢諭吉を引っこ抜いた。
「喜んで!」勢いよくナナコ女史がディスクから立ちあがる。むさい七月の熱気にやられたタイトスカート。ウエストまわりには縦にシワが並ぶ。「合点承知の助!」
うちの会社に就職するまでは居酒屋バイトだったナナコ女史。
退社後は直帰で劇団員という生活を現在も続けるナナコ女史のその思考は一般的な社会人とはかなりかけ離れた反応を示すのだった。
などというものの……かくいうこの俺も、会社をまとめる人間としてはどうなんだろう、この言葉の選び方は……
俺から現金を奪い取るとナナコ女史はオフィスから駆けだしていった──なんだろう、この感じ。
初々しい彼女のことがやけに眩しく思える。きっと、もう俺は若くはないのだろう。
老いていく俺の思考などもろともせず、
タワーPCのアップデートは続く──29%──ごとごとと安物のHDDが回転していく。