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ナナコ女史がいった。「ここの料理美味しいですね」
「確かに」と俺。
「そうですかねえ」とレオギはいって、「なんだか、東京が懐かしくなってきましたよ」
なぜだか、緊張の糸が張り詰めている。
「シムラーの奴、ショック過ぎて修行の旅に出たみたいですよ」
「なんの修行?」
「さあ、空手かなんかでしょ」
自称空手家のシムラー。
学生サークルに飲み屋で絡み、容赦なくボコボコにされていたのを社員全員で助けだしたのは思いだしたくもない過去の出来事だ。
黒歴史。
「…………」会話が続かない──そもそも、楽しい会話など端から無理なのだった。
*
ナナコ女史が化粧直しのためにトイレに行ってしまうと、忘れ物でも見つけたようにレオギがいった。「コンタクトのナナコ女史も可愛らしいですねえ」
「お前がなにをいいたいのかよくわからない。一体なにを仕込んでる?」
「もっと、いろいろ、ナナコ女史にさらけ出した方がいいと思いますよ。なんか自分のことを繕ってるって感じがしますよ、今日のチョーさんは」
「なにを話せっていうんだ。昔、ハンマー投げををやってたってことか?」今は単なるデブだ。俺はこう続ける。「面白くないだろ、そんな話。そんなことより、なにか俺に隠しごとがあるなら、さっさと白状してくれたまえ」
「実はですねえ」深刻そうにレオギはいう。「悲しむべき報告が本日はあります。ホテル側から今日催促がございまして、つまり、ついにナナコ女史が部屋から追いだされたと、まあ、こういう訳なんですよ」