入学式 校門前
「新入生の皆さん。校舎前の掲示板にクラス表があります。各クラスに新入生の名前が記載してありますのでご確認ください。確認した後は父兄と体育館に移動してください。繰り返します。」
第四高校の校門前で、簡易テーブルの上に置かれているスピーカーから繰り返し同じ放送が流されている。
入学式まで一時間弱時あるため、体育館に移動する入学生はまだいない。父兄と写真を記念撮影をする人。校舎前の掲示板で自分のクロスを確認する人。皆、これから入学式を迎える新一年生である。今日一人で来ている槇基弥もその一人だ。
本来なら基弥も保護者同伴来るはずだが、幼いころ両親が事故で亡くなり、両親の死後基弥を引き取った祖父も二年前に亡くなったため、基弥の保護者は親族ではなく、祖父の知人「郡山崇」になっている。その郡山も今日は用事があるため来られない。
「郡山さんには大丈夫っていったけど、やっぱ少し寂しいな。」
祖父が健在な時は必ず学校の行事には出席してそんな思いはしなかったが、中学の卒業式や今日の入学式ではどうしても寂しさを感じてします。
「だったらうちに連絡すればいいのに」
「寛和兄さん!」
不意に基弥の背後から声が聞こえ振り返ってみると第四高校の制服に生徒会の腕章をつけた従兄緑山寛和が立っていた。
「母さんと爺ちゃんが仲良くなかったからお前が遠慮するのは判るけど学校の行事くらい母さんだって来てくれるぞ。」
「そうだけど・・・。叔母さんだって忙しいでしょ。」
「『専業主婦の忙しい』はあてにならないぞ。まあ、今さらそんなこと言っても仕方ないから写真撮ろうぜ。」
「写真!!」
「入学式に入学生が校門前で記念撮影するのは当たり前だろ。」
「でも、兄さんだって生徒会の仕事があるんじゃ。」
「俺の仕事は入学生のサポートだ。写真を撮ったり、道案内するのが主な仕事。
だから今日から入学する従弟の面倒を見るのも仕事だよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
従兄の気遣いに感謝しながら基弥は記念撮影のため校門前に向かった。