鼻歌を歌って元気になろう
昨日の夜は眠れなかった。
寝よう、寝ようと思っては見たものの、色々な事が頭の中をよぎって眠れなかった。
神楽さんの婚約者の事、嫌なメールの事、そして私が神楽さんに返信したメールの事…
決心をして断りのメールをしたものの、その決心は送信した後すぐに、グラグラと揺らいだ…
私って馬鹿だな〜とつくづく思う。
はぁぁぁ〜…外の景色を見ながらため息をついた。
イタタタ…まだ体中が痛い。
足もまだ腫れている。
入院は1週間くらいだって言ってたけど…その分の給料がもらえないのはキツイ。
ガチャッ!
病室のドアが開く音。
その音に反応して、私はドアの方に目をやる。
そこにはあの男が立っていた!
戸籍上だけの父親…目が合っただけで寒気がはしり、鳥肌が立つ!
母の姿は見当たらなかった。
嫌な予感がする。
「よう!もう4年も音信不通で淋しいじゃねえか…お前がいなくなってからさんざん探したんだぜ!」
義父はそう言いながら私に近づいてくる。
来るな!!私の心が悲鳴に近い叫び声を上げている!
「俺と別れてからまた一段と綺麗になったな…」
義父の手がスッと伸びてきて、私の顔を触ろうとした!
私はその動作に嫌悪感を感じて、義父の手を振り払う!
「その顔…あの時の顔を同じだ…俺の体はまだお前を忘れてないぜ!」
義父はニヤッと嫌な笑みを浮かべてそう言った。
吐き気がする…。
怒りと恐怖が一緒になって心を締め付けてる。
私は咄嗟にナースコールを握り締めて押した!
ナースステーションの方から足音が聞こえてきた!
ドアが開き看護師さんが入ってくる
「どうされました?」
看護師さんと義父の目が合い、義父は何食わぬ顔をして軽く会釈する。
「じゃあ、また来るからな」
義父はそう言って口笛を吹きながら病室を後にした。
クソヤロー!!!
義父の言葉が耳に残って離れない…。
「看護師さん、私退院します!」
思わずそう言っていた。
「打撲と捻挫だけですから、退院できない事はないでしょうけど、まだ痛みもかなり残っているでしょう?」
看護師さんの言葉に、頭は納得していた。
入院してた方が体が楽なのはわかっている…
だけど…怖かった…
あいつはまた来る…早く逃げ出したかった。
私の様子を見て、看護師さんは何かを感じ取ったらしい
「わかりました。今、先生に相談してきますから、待っていてください。」
看護師さんは優しくそう言って、病室から出て行った。
思い出す…忌まわしい過去の記憶。
あいつの目、あいつの声、あいつの手…
あいつがこの体に触れたあの日を思い出す。
寒気が走り、吐き気をもよおす。
心の奥底に閉じ込めたはずの記憶だった。
とにかくここからすぐに逃げなくちゃ!
私はそう思うと同時に痛い足を引きずりながら、荷物をまとめ始めた。
すぐに退院できるように準備をして、待っていた。
コンコン、ドアをノックする音
「どうぞ」
私の声にドアが開き、先生が入ってきた。
「羽生さん、大丈夫ですか?」
先生は私の顔を覗き込んでそう聞いた。
「大丈夫です」
本当はまだ痛い、でも此処にいて、あいつが来るんじゃないかって恐怖を感じながら過ごすのは耐えられない。
「ふん…しょうがないですね、ただしくれぐれも無理はしないでくさいね。」
先生の言葉に私はホッと心を撫で下ろした。
帰れる…よかった…
私は荷物を持って、痛みを我慢しながら病院を出てタクシーに乗った。
アパートまではものの15分程度…
私が怪我をしてる事を知って、タクシーの運転手さんがドアの所まで荷物を運んでくれた。
本当にありがたかった。
私は部屋に入り、居間に足を投げ出して座る…
やっと少し心が落ち着いた。
私は自分の体を自分で抱きしめる
あいつにあの夜された事を思い出す…
自分なりに作り上げた強い心がきしみ揺れだしていた。
私はそのまま体制を崩し絨毯の上に大の字になって寝そべる
奥の部屋に干してある洗濯物が視界に入った。
あ!…神楽さんのハンカチ…
私は痛いほうの足を庇うように立ち上がると、そのハンカチを取って、握り締め胸にあてる
神楽さん…神楽さん…
あいつに襲われたあの現実が記憶とゆう名の姿を借りて私に迫ってくる
私はハンカチを握り締めてその場に座り込み、そのまま動けなくなった。
知らず知らずのうちに涙が流れ、絨毯の上に落ちる。
私は頬を伝う涙を拭い、天井を見つめて深呼吸する
過去はどんなに頑張っても変えられない、でも未来は変えられる!
まずそれには自分自身が輝かなくちゃ!今この瞬間に幸せを感じよう!
どんなに辛い事があっても、前を向いて頑張るしかないじゃん!!
私は自分にそう言い聞かせて、ゆっくりと立ち上がると、アイロンを出してきて、ハンカチにアイロンをかけ始めた。
こうゆう時は鼻歌でも歌いながら、仕事をするにかぎる!
部屋には私のオンチな鼻歌が流れていた。
麻未が家を出た理由はあの義父にあった。
度重なる暴力による虐待。
そして性的虐待。
過去は過去、変えられるわけではない。
だが未来は変えられる。
麻未は前向きに歩いていく。
次回は優介と麻未の関係が進展します。お楽しみに!