今 この瞬間を見つめて
優介の顔がだんだん近付いてくる…な、何!?え?え〜??どうしよう!
私は思わず目を硬く閉じた…
あれ!?想像していたのとちがう感触…優介の頬が私の頬に当たり、優介の腕が私を包み込むように抱きしめていた…
違う事を想像していた自分が恥ずかしくなる…そして自分が優介の存在をどんなに求めているのか思い知らされる…。
私の心は本当に要領が悪いとゆうか、はっきりしないとゆうか…そのどっちつかずの気持ちが自分をも苦しめ、優介をも苦しめている…。
「麻未…俺も考えた…俺の気持ちと麻未の気持ち…俺はお前に笑顔でいてもらいたい!そのために俺が離れた方がいいとゆうならそれも仕方が無い事だと…お前の立場で考えるとそれは仕方が無い事なんだろうけど…どうしても俺の気持ちがそれに納得できなかった…俺の事を嫌いになって別れるならそれは納得するしか仕方が無いけど…愛してるからこそ一緒にいるのが辛い…愛してるのに別れなきゃいけないなんて…そんなのやっぱりおかしい!俺が俳優をやっていて女優と共演する事やその他の女性と関わる事が心配で不安になるのなら俳優を辞めたっていい!」
優介の優しくて力強い声が私の耳元で響いた…
驚いた!優介の口から俳優を辞めてもいい!なんて言葉が飛び出してくるなんて…
それと同時に、こんなにも優介を苦しめていた事にあらために気付かされた。
私自身も辛い、だけど私だけじゃなく優介も苦しんでいた…
どんな事があっても俳優だけは好きだって言ってた優介が…辞めるだなんて!
そんな事、絶対に駄目よ!…だって優介にとって俳優は天職だって思う…あんな素敵な演技をするのに辞めるなんて!しかも私の事で辞めるなんて…絶対に…駄目…
こんなに、こんなに…私の事を考えてくれている…こんなに愛してくれている…
私の心が安心してしまいそうになる…純粋に絶対的に信用する事ができたらどんなに楽だろう…どんなに幸せだろう…
私の中に、常につきまう…もしかしたら?の気持ち…。
「麻未…確かにな、先の事は誰にもわからない…俺にだって先の自分に対して絶対って言葉をつけるは難しいと思う…だけど、今こうしてお前の傍にいて今こうしてお前の事を思う気持ちには絶対って言葉をつけられる…今を真剣に一生懸命生きてみないか?その勇気を俺が与える事はできないか?」
優介の真剣で真っ正直な気持ちが伝わってくる…
忘れていた…今を生きる気持ち…未来は誰にもわからないし決める事もできない!だからこそ今を大切に!
そうだね…その通りだね…
見えない先に不安を感じてる私…これじゃあいけないよね…先を予想す事は大事だけど、先読みしすぎて今が見えなくなっていた…
そう!今この瞬間の優介の気持ち…私の気持ち…
「優介…優介…優介…愛してる…」
今の自分の気持ちに蓋をして、もうこれ以上傷つかないように作り上げていた自分がいた事に気付く。
今、蓋が外され、自分の気持ちが溢れ出す…。
「わかった…わかったよ…」
それ以上の言葉は涙で掻き消されて言葉にならなかった。
優介は優しく私の事を抱きしめてくれる…。
「フラワーデザイナーに絶対なれよ!それがお前の自信につながるなら、応援する!そして一段といい女になれ!」
優介の言葉が温かく心の中に浸透する…誰よりも応援してほしい人の言葉…嬉しかった…。
シュンシュンシュン…やかんのお湯が沸く。
「やべぇ…」
優介はそう言ってわたしから離れると、火を止めてやかんのお湯をポットに入れた。
私は涙を手で拭いながら、鞄を引っ張ってきて、中から優介に貰った指輪を出し手のひらに握り締めた。
優介はカップにコーヒーを入れると、机の上に置く。
私は握り締めた指輪を、鏡の前に置いてあった空の入れ物の中にそっと収めた。
その時だ!優介は口を開く
「麻未…俺は形にこだわらないよ…お前が自分に自信を取り戻して、その気になるまで待ってるつもりだから…ゆっくりと時間を一緒の歩こう…」
優介のその言葉に驚いた。
何も言ってないのに、私の心の中を見事にとらえていて、言いたい事を優介が全部言ってくれた。
わかっていてくれる…こんな私のわがままを理解してくれる…
「ごめん」
そんな言葉しか出てこなかった。
優介は愉快そうに笑っている
「謝る事はないよ…形よりも大事なのはそのど真ん中にある気持ちだろう?俺はお前の事を言葉で言い表す事ができないくらい愛してるし、お前も俺の事で傷つく事を恐れるくらい深く俺の事を愛してる…それだけで十分だ…」
優介はそう言いながら、コーヒーを一口飲んだ…。
ありがとう…優介…
私は自分の心から感謝と尊敬が入り混じった愛が溢れ出すのを感じていた。
何の違和感も無く、自然に私は優介の唇に自分の唇を重ねていた。
優介の腕が私の背中に回り、私を抱きしめる。
私達は長い長い口づけをかわした。
形に囚われる事無く、本当の芯の部分の愛だけを大事に
一瞬、一瞬を大切にしていきたい…
私達は新たに一歩踏み出した。
あまりにも先の事を見すぎると、足元が見えなくなってしまいって、時には躓いて転んでしまったりする。
先を見る事も大事だけれど、一歩一歩足元を見つめて歩く事は未来にもつながる。
やっと麻未もその事に気付いたのかもしれない。
二人は今回の事を乗り越えた事で、本当に大切なものを再認識して、新しい一歩を踏み出した。
ついに次回は最終話になります。
もう少しお付き合い下さい。
よろしくお願いします。