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愛情も優しさもない言葉

「佐倉さん…」

なぜ、佐倉さんが?…私が入院してる事何故知ってるの?そんな疑問が頭をめぐる。

「な、なぜ!?」

私が驚いていると、佐倉さんは表情を固くしたまま病室に入ってきて私の目の前に立った。

「まさか貴女が入院してるなんて思ってもみなかったわ…」

佐倉さんはそう言いながら腕を組んで鼻で笑う。

「私だって業界にいた人間、それなりに情報だってはいって来る…最近優介の様子がおかしいって、しかも引退説まで流れてるって聞いて、心配で優介の様子を見に行ったの…仕事が終るなりどこに行くのかと思って後をつけたら、この病院の前で車を止めて、しばらくするとそのまま帰ってしまう…おかしいなと思って調べたら貴女が入院していた…」

佐倉さんはため息を付くと髪の毛を掻き揚げなら私の方を睨む

「貴女がどうなろうとどうでもいい…だけど優介が辛い思いをするのだけは許せない…最近の優介の変化は貴女が原因なんでしょう?…いったい何があったの?」

私は佐倉さんの問いに、戸惑った…知られたくなかった…弱みを握られてしまうようでこの人にだけは知られたくない!そう強く思った。

私の態度に佐倉さんは眉間にしわを寄せる…そして佐倉さんから目線をはずしていた私の顔を両手で挟むと、無理矢理自分のほうに向かせる。

「いい!よく聞いて…私は優介に幸せになって欲しいの!そのためなら何だってやるわよ!腹が立つけど優介は貴女と一緒にいる事を望んでる…どうして優介は貴女に会わないで帰ったの?言いなさい!」

佐倉さんの迫力に押される。今の私の精神力で勝てるはずも無かった。

「私から別れたいって言ったの…」

周りの音に掻き消される位の小さな声で私は言った、佐倉さんはその言葉に驚いた顔をする。

「なぜ?…貴女…優介の事好きなんでしょう?」

その問いに、答えられなかった…口にするのが辛すぎて言葉にする事が出来なかった。

私は唇を固く結ぶ…唇は微かに震え、今にも涙が流れそうになる…。

その様子を見て佐倉さんはあきれた顔をする。

「ああ!腹が立つ!!私から優介を取っておいて…何?いらなくなりましたから、別れる?何よそれ!そんな事が許されるとでも!」

佐倉さんは私の襟元を掴んで睨みながらそう言った…。

私の気持ちも知らないで…そんな勝手なこと…嫌いになったわけじゃない!大好きで大好きでだから…だから…

「子供ができない女と一緒になっても…子供が出来なくなったんだから…しかたがないのよ…佐倉さんにあげる」

私の頬を伝って涙が流れる…絶望感が私にそんな投げやりな言葉を言わせた。

佐倉さんは私から手を離して、呆れ顔で笑う。

「恐いのよ…その事で優介の気持ちがいつか変わってしまうんじゃないかって…馬鹿みたいに臆病でそんな事ばかり考えてて、そうよ…そんな不安から逃げたいだけ…」

その時だ!佐倉さんの平手が私の頬に飛んできた!

激しい痛みが頬に走る!

「何よそれ!馬鹿にしないでくれる!!貴女は贅沢ね…あんなに演技することが大好きな人が、その演技ができなくなるくらいに貴女の事を真剣に思っていて、悩んでいる…病院の前に車を止めて病院を見つめている優介の目はとても悲しかった…悔しいけど、私はもちろんの事、他の女性じゃたぶん貴女の代わりにはならないのよ!なぜそれがわからないの!!…私が変わりになれるなら遠慮なく奪うけど…心はそう簡単に変えられない、私はそれを貴女と優介から学んだ…貴女の気持ち、そんな簡単に変えられるの?」

割り切ったつもりだった…そんな簡単に気持ちは変えられない…それは十分わかってる…

「子供ができるできないなんて…そんなの女の価値でもなんでもない!ああ!もう!腹が立つ!なんで私が貴女にこんな事!?もしも優介が原因で子供が出来なかったとしたら?貴女は優介を捨てるの!?私なら優介を捨てるような事絶対にしないわ!」

その言葉に、私の中で何かが弾けたような気がした。

佐倉さんの言葉が頭の中をグルグルと回る…優介が原因で子供が出来ないとしたら…そうだったら…それでも一緒にいる…それならなおの事一緒にいてやりたい…優介もそんな気持ちなのだろうか…。

佐倉さんの言った言葉は私の心に深く深く突き刺さる。

私の事を疎ましく思ってる佐倉さんの言葉…そんな人の言葉だからこそ信用できる自分がいた…その言葉の裏には愛情だとか優しさだとかそうゆう気持ちは含まれていないだろうから…だからその言葉には冷静な響きと正直さが感じられた…。

心の中に立ち込めていた雲の隙間から光が差し込んでくるような、そんな気がした。

「優介を捨てたりなんかしない…優介も同じ気持ちだと…!?」

私の口からボソッとでた問いに佐倉さんは鼻で笑いながら口を開く

「私が愛した男だもの、あたりまえじゃない!…貴女よりも優介とは付き合いが長いのよ!そんな事くらいで気持ちが変わるような男じゃない…もしも気持ちが変わるとしたら、貴女がいつまでも暗い顔をして嫌味ばかり言ってたりしたら変わるんじゃないかしら?別にそうしてくれてもいいけど…その時は私にチャンスが巡って来るだけ!」

佐倉さんはそう言いながら、私の方を冷たい目線で見ていた。

「佐倉さん、ありがとう」

佐倉さんの言葉に感謝した。

私は自分の気持ちが徐々にスッキリしてくのを感じていた…不安が全て消え去ったわけではない…だけど前向きにどうすべきか考える機会を与えてもらったような気がする。

「勘違いしないで!貴女のために言ったんじゃない!もしも優介を不幸にしたら絶対に許さない!その時は覚悟しなさい!」

佐倉さんの目線が私に突き刺さる…この人のこのセリフは信憑性がありすぎてちょっと恐い。

「私の目が光ってる事、忘れないように…じゃあね!」

佐倉さんはそう言って、私に背を向けると病室を出て行く。黒い髪の毛が揺れていた…。


たった今、佐倉さんと此処で話した話を思い返していた。

優介の気持ちを信じたい自分がいる…不安を抱える自分がいる…優介を大好きな自分がいる…自信の持てない自分がいる…

どうしたら、うまく自分の気持ちをまとめられるのだろう…。

何か自分に自信の持てる何かがあればいいのだけど…

今、私にできる事…


私はそんな事を考えながら窓の外を見た…。

まだはっきり答えは見えない…ただ不安からひたすら逃げようしていた前とは違って、今は前向きに自分がどうしなければいけないのか?そう考えられるようになったいた。

自信が持てなくて不安になっていたのだとしたら、どうやれば自信を取り戻せるのか…

どうすれば…どうすれば…


私はため息をついて、自分の胸に手をあて静かに目を閉じた…。


外は晴れいて、秋がすぐそこまで迫っている空は、澄んでとても高く感じた。


愛してくれている人の言葉は自分の事を思いやるばかりにそこには嘘が発生する事がある、だが、自分に対して愛情を持ってない人の言葉は時として冷静で正直さをもつ…優介の事を愛してる佐倉が麻未に対して擁護する言葉を言った。麻未と優介の間を壊すために嘘をつく事はあるかもしれないが、二人の関係を温存するために嘘をつくとは考えにくい…。

そこに麻未は佐倉の中の真実を見たのだろう…


優介の気持ちもはっきりし、麻未の気持ちもまとまりつつある中で、二人の関係はどうなっていくのか

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