笑えない
麻未からのメールで、明日病院を退院するって言っていた…
あの日から毎日、病院の前まで行っては窓を見上げて帰る日々が続いている
色々考えているが答えはまだ見つからない…
仕事に支障をきたしていた…笑えない…笑顔を作れない…
業界内に俺の引退説があいかわらず流れていた…今の所引退する気は無いんだけど、このままだと引退するよりも先に俺の価値が無くなってしまうかもな…。
駿と竜太からも心配してメールが来ていた…はぁ〜まったく…
俺の中で麻未の存在がこんなにも大きいとはね…あいつの笑顔の偉大さを思い知る。
あいつの笑顔が見たい…俺と別れたら、笑顔になれるんだろうか…
あいつは俺を愛してると言っていた…別れたからと言って笑顔になれるか?なれないよな?
俺だったら…少し考えて…無理だろう…そうゆう結論になる。
来てしまった…こんな俺は可笑しいか?…なあ澄香…
今の女の事を相談する相手が、昔の女だなんて…
相談じゃないな…ただ愚痴を言いにきただけだな…
もともと俺は単純に出来ている…難しく考える事は苦手だった。
澄香…麻未が俺と別れるって言うんだ…
俺といると辛くなるって…それが恐いって…
わからないわけじゃない…愛が深ければ深いほど、傷つく事への恐怖も大きくなる…
俺がそうだったように…わかる…傷つく事が恐いのはわかる…
それは俺にも理解できる。
だけど、だからと言って別れるという事とは別のような気がするんだ…
ああ!!もうわかんねぇ〜!!頭の中がゴチャゴチャになってる。
俺の頬をかすめて秋を感じさせる風が吹く…え!?…今、何か聞こえた?
また風が吹く…まさか!?
風は俺の耳元をかすめて吹く…「あなたは…あなたらしく」
聞こえた…澄香の声!?…まさかな…でも確かに…幻聴か?
まあ、どっちでもいい…あなたらしく…か…
俺の心の中に温かい風が吹いた様な気がした。
俺にとって何がベストだ?…今はとにかく麻未の笑顔が見たい…関係が恋人としてじゃなくてもいいから、とにかくあの温かい笑顔が見たい…それがあれば俺も笑顔になれる…きっと。
結婚なんかどうでもいい…形になんかこだわらない…麻未が元気になれさえすればそれでいい!
そうか…そうだよな!それが俺のベストだ!
俺は澄香の墓に触れる…
ありがとう…心の中でそう静かに呟いた。
澄香、お前のおかげでやっと答えが見つかったような気がするよ…
とにかく、俺がどうとかじゃなく、麻未が笑顔になれるようにやってみるよ…
俺は墓石に、口づけをした…冷たい感触…
愛情とは違う感情が込み上げてくるのを感じる。
それは懐かしい匂いを持った切なさだった。
澄香…また来るからな…
俺は丘を下る…その背中を押すように優しい風が吹いていた…。
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今日もテレビをなんとなく付けなら過ごしている…馬鹿だな…本当に大馬鹿…
もしかしたら、優介が映るんじゃないかって、心の中で期待している。
ただのファンとして見る分には、楽しいのにな…自分でも自分の複雑な感情がわからない。
ここ何日も考えてた…ついつい先読みして未来に恐怖を感じる…なぜそんなに恐いのか?不安を感じるのか?その不安から逃げるために優介を遠ざける…。
不安の原因になってるのは…自分に自信が持てないから…だからもしかしたら?ってついつい優介の気持ちまで疑ってしまう…。
もしもまた自信を持つことが出来たら?…不安は消えるかな…
自信…か…どうすればいいのかな…
あれ!?今…神楽優介って、テレビで言ったかな?
私はその声に反応してテレビを見る…
キャスターが言ってる言葉に驚いた…優介が芸能界を引退!?…嘘よ!!
ああ…そうか、まだ疑いなのね…じゃあ嘘だわ絶対…。
だけど…何?…降ろされた?仕事を降ろされたって?…何よこれ!?
私はベッドに座っていたのを、思わず立ち上がってテレビの前に立つ。
「驚いた?その話は事実よ!」
病室のドアの方で声がした…聞き覚えのある声だった。
私はドアの方を見る…やっぱり…そこには冷たい表情で佐倉さんが立っていた。
優介は麻未とのこれからの事を考えるあまり、演技にも身が入らずドラマを降ろされてしまった。
麻未はその事をテレビで知り、そこへあの佐倉が現れる…
なぜ麻未が場所へ佐倉が現れたのか?
佐倉の登場は何を意味するのか?