引退説浮上!?
「何やってる!そこはそうじゃないだろう!もっとこう精悍な感じで!そんな悲しい表情してどうするんだ!」
監督の激が一帯に響き渡る。これで何テイク目だ?かなり撮り直しをしている。
このシーンだけで今日は終ってしまうんじゃないかとゆうくらいに、俺自身のノリが良くない。
「もういい!とりあえず小休止!神楽!お前いいかげんにしろ!」
監督はかんかんになって、一旦バスの中に戻っていく。
このままだと降ろされかねないな…マネージャーが汗を拭きながら俺に近付いてくる、表情を見て言いたい事はわかってる…わかってるんだけどな…
どうにもこうにも…うまくいかねぇ〜!あぁ〜!ったく!!
俺はため息をつきながら、自分専用の椅子に座って空を仰いだ…青い空に白い雲が漂っていた。
そんな俺の顔の前に黒い影が現れる!思わず上を見ていた状態なおして後ろを振り返る!
あ!駿!?…なんでここにいるんだよ!
「よう!」
駿はニコッと笑う。
「なんでここにお前がいるんだ?」
俺はちょっとつっかかる感じでそう聞いた。
「あらら…重症だね…ただの陣中見舞いだよ」
そう言って、駿お得意のメロンパンをスタッフに振舞う…このメロンパン、凄く高くて一個350円もする!どこで売ってるのか絶対に教えてくれない…
「今、少しなら時間あるだろう?ちょっと話さないか?」
駿にしては珍しく神妙な面持ちで俺にそう言う…駿の言いそうな事はだいたい想像がついていた…最近業界に出回ってる噂…。
俺は駿に貰ったメロンパンを頬張りながら、駿と一緒にスタッフのいるところから離れて、川岸まで歩いていく…。
駿は川の手前でしゃがみ込んだ。
「お前、辞めんの?」
駿は川の水面を見ながらそう聞いた…やっぱりその事だったのか…
「どうしようか…」
これが今の俺の正直な気持ち…ここの所、俺の引退説が業界に流れている…原因は俺のスランプだ…さっきも監督に怒られていたとおり、ついつい表情が曇ってしまって思うように演技が出来ないでいた…。
まったく。俺自身が自分に愛想を尽きそうになるよ…
駿は俺の言葉に勢いよく俺の方を振り向いて睨んでくる。
「悪かった…冗談だって…そう睨むなよ…」
俺は苦笑いをしながら、川に小石を投げ込んだ。
「何があったんだ?」
駿の問いに本当の事を言おうか言わないか迷う…
「…ちょっとな」
俺はまた小石を一つ川に投げ入れた。
「麻未ちゃんとうまくいってないのか?」
駿が鋭い事を聞いてくる…そう確かにうまくいってると自信を持ってはいえない状況だな…メールしてもその半分に返事がくればいい方なんだから…。
俺は体がそのままへたり込んでしまうんじゃないかと思うくらい、大きなため息をついた。
その状態を見て、駿はそれなりに状況を悟ったらしい…。
駿は俺の肩を軽く叩くと、それ以上何も聞かなかった…。
俺はその優しさに感謝した。
「優介!撮影を再開するって!」
マネージャーが俺を呼びに来る。
俺は一瞬、駿の方を見た、駿の方も俺の方を見た、お互いに鼻で笑った…
「じゃあ、俺も帰るわ!」
「メロンパン、サンキュウな!」
駿は俺に背を向けて手を振りながら帰っていった。
しかし、このメロンパン、旨いよな…どこに売ってるんだ…
麻未にも食べさせたいな…
ハハハ…また麻未の事考えてるよ…ったく!要領の悪い頭だな!
俺はそんな事を思いながら撮影に戻った。
会わなくなってから今日で10日…まだ麻未から会いたいってメールは来ない。
ああ!!もう!!
しっかりしろよ!麻未の事だ、きっと笑顔で指輪をはめていてくれるさ!!
願いにも似たその思いを自分に強く言い聞きかせた…
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
私はベッドの上でテレビをなんとなく見ていた…テレビの中ではお笑いの人たちがくだらない事をしなら笑っていた…
CMになる…あ!優介だ…
優介がテレビの中で笑っていた…そして…赤ちゃんを抱きしめて微笑んだ…
胸の奥底の重くて硬い塊が騒ぎ出す…
優介が赤ちゃんを抱っこして微笑んで…それから女性が来て3人で抱き合った…
洗濯洗剤のCMだった…。
知らず知らずのうちに涙が流れる…
いつも気になっていた、胸の奥底の重い塊…
やっと気付いた、自分の中に埋もれていた本当の自分…
笑えちゃう…私ってこんなに自分勝手でわがままだったんだ…
私は窓の外を見る。遠くの街並みを真っ赤な夕焼けが包んでいた。
優介に会って、話をしなくちゃ…
優介は麻未の事が頭から離れず、演技に集中できないでいた。その噂が広まり、引退説も浮上していた。
一方、麻未は優介のCMを目にして、自分の中に埋もれている本当の自分の気持ちに気付く。
麻未の本当の気持ちとは!?優介はその言葉にどう反応するのか!?