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優介の苦悩

だぁ〜!もう!麻未のことが頭から離れない!

麻未は今頃どうしているだろう?

ちゃんとご飯食べたかな?

ちゃんと寝れただろうか…

落ち込んでたりしないかな…

俺の頭の中は麻未の事で一杯だった、ほかの事を考えようにも頭が回らない。


「優介!ほらどこ向いてるんだ?」

俺は只今CMの撮影中!

どうやったってこんな状態で仕事に集中できるはずも無かった。

心配だった…昨日送ったメールの返事がそっけないものだったから。

だけど、仕事そっちのけで麻未に会いになんか行ったら、怒りそうだったし、会ってもくれない、そんな気がした。


「じゃあ優介、次はこの子抱っこして笑ってくれるかな!」

ディレクターの声に俺は少し戸惑った。

CMの内容は洗剤のCMだった、赤ちゃんを抱っこして微笑むシーンを撮らなければならない…。

正直、このCMだけは断りたい仕事だったんだ、だけどもう契約はしてしまった後だった…。

今の俺に笑顔が作れるか!?しかも赤ちゃんを抱いて…

いや!やらなきゃな!これからも俳優として仕事をしていくなら、やらなきゃいけない!

こんな事でもしも仕事ができないとしたら、麻未を余計に落ち込ませてしまうだろう…。

俺は赤ちゃんを抱っこする。

赤ちゃんは柔らかくてフニャフニャしていて気持ちのいい感触だった。

可愛いな…そう思った…

う!やべぇ〜!

周りが静まり返る…なぜかって?

俺が泣いたから…泣いてしまったから…自分の意思とは無関係に暴走する感情…

「す、すいません」

俺は謝りながら、涙を急いで拭う。

「大丈夫です!」

そう言って、俺は赤ちゃんを抱っこして立った。

ディレクターの厳しい鋭い目線が突き刺さるように俺を見る。

いい緊張感が伝わって、俺の中の感情をひと時だけ抑えてくれる。

俺は赤ちゃんを抱っこして微笑んだ。

「優介、もっと、こう愛おしそうに微笑んでくれ!」

ディレクターの声に俺はもう一度微笑む、だがディレクターは納得しなかった。

「何か違うんだよな…お前にも愛おしいと思う人くらいいるだろう?その人の事を思い出して微笑んでみろ!」

ディレクターの言葉に俺はため息をつく。

麻未の事を思ったら、今の状況じゃ微笑むどころか普通にだっていられない…。

「それじゃあ行くぞ!」

ディレクターの声に俺はほんの少し俯いて大きく深呼吸する、そして顔を上げた…

よし!愛おしい気持ち…気持ち…。

「スタート!」

俺の感情、もってくれ!

麻未…愛おしい麻未…あのドジですぐ真っ赤になる可愛さ…目も鼻も唇も全てが大好きで愛おしい…人の心を察してなにげなく手を差し伸べてくれるあいつの心…俺にとって大切な大切な存在…

「カット!OK!今の良かったよ!…どうした優介!今日のお前おかしいぞ…何かあったのか?」

ディレクターの言葉にため息を一つつく

なんとか今度は感情がもった…ただ麻未の事を思った事で今すぐにでも病院に行って、麻未を抱きしめたい衝動にかられる。

「女にでも振られたか?」

ディレクターは冗談で言ったんだろけど、その言葉は俺の神経に微かに触れた!

「まさか!そんなわけないじゃないですか!」

俺がむきなってそう言うと、ディレクターが鼻で笑いながら俺の肩を叩く

「何を悩んでるのか知らないけどな、悩んで解決できる事なんて微々たるもんだぞ!それよりも当たって砕けろ!だよ!…あ!砕けちゃまずいか!ハハハ」

ディレクターはそう言って笑っている。

ハハハって、まあ確かにディレクターの言葉も一理あるな…そう思ったら心が少しだけ軽くなったような気がした。


俺はスタジオを後にして、次の仕事現場に向う。

次はバラエティーの収録…

俺はマネージャーと一緒に車に乗り込む。

外は雨が降っていた…。

そう言えば、このルートで走ると麻未の病院の目の前を通るんだな…。


昨日の最後のメールの言葉


私の事は気にしないで

優介は仕事を頑張って

おやすみ


それだけだった…なんとなくそっけなくて冷たい感じ…


精神的にはまだまだ立ち直ってないはず…俺はそれだけが心配だった。

子宮を摘出する…子供が出来なくなる事を意味する…それがどんなに非情で過酷な事か俺が想像しても想像できる範囲をおおきく超えるて事だろう…。

わかってあげられない事がこんなに苦しいことだとは思ってもみなかった…


俺はそんな事を思いながらただたた雨に濡れる街並みを見ていた。




麻未の事を考えると、仕事に集中できない優介。

子宮を失い、子供が出来なくなってしまう悲しみを、他人事のように理解はできても、本当の意味で理解してやる事が出来無い事に、優介は苦しんでいた。


麻未もまた表現しようのない気持ちに襲われ苦しんでいた…

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